「親知らず」の基礎知識

日本大学松戸歯学部口腔外科学講座 (DRリポート253回)

教授 石井良昌先生

 皆さんは歯の本数をご存じですか。上下左右7本ずつあるので、28本です。その後ろの親知らずをいれると上下左右の4本を足して合計32本です。親知らずは「8番」「第三大臼歯」「智歯」と呼ばれる歯で、通常、17歳から25歳ごろに生えてきます。しかしもともと無い人や、あっても骨の中に埋まったまま生えてこない人もいます。

抜歯不要の親知らずもあるが・・

 親知らずがまっすぐに生えており、上下の歯がしっかりと噛み合っていれば、無理に抜く必要はありません。しかし現代では顎の大きさと歯の大きさのバランスが悪く、歯列に並びきらない人も多く、親知らずの多くはスペースが足りずに斜めや横向きに生えてしまい(写真1)、さまざまなトラブルを引き起こすことがあります。また「第二大臼歯(7番)」が生えてこない人も多くなっています。さらに「kissing molars (molars:大臼歯)」といって埋伏した2本の大臼歯がキスをしている(写真2)ような人もいます。

写真1 斜めに生えている親知らずの写真
写真2 kissing molarsのレントゲン写真


 親知らずが手前の歯にぶつかるように生えていると、食べ物が詰まりやすくなります。親知らずだけではなく、その手前の歯も虫歯や歯周炎のリスクが高まります。また、親知らずが炎症を起こすと「智歯周囲炎」と呼ばれる強い痛みや腫れを引き起こし、口が開かなくなったり、顔が腫れたりすることもあります。

抜歯に当たって

 このようなリスクがある場合は親知らずを抜歯することが勧められます。特に20代~30代の若いうちに抜いておくと、治癒も早く、合併症のリスクも低く済む傾向にあります。ただし、親知らずが下顎の神経や血管に近い位置にある場合や根の先が湾曲していたりする場合は、歯科でCTを撮影してその位置関係を確認することは重要です。
 親知らずの抜歯は、通常の歯科医院で対応可能な場合もありますが、難しい症例では当院のような口腔外科がある病院に紹介されることが多いです。そして局所麻酔での処置がほとんどですが、鎮静法や全身麻酔が必要になることもあります。手術時間は10分程度で終わることもあれば、難しい場合は1時間以上かかることもあります。

抜歯後の注意点

抜歯後は、腫れや痛み、内出血斑が出ることがありますが、通常は3日目がピークでおさまってきます。処方された痛み止めや抗生物質を服用することで症状を抑えることができます。また、出血を防ぐために当日は激しい運動や長い入浴を避け、うがいもしすぎないようにします。腫れても冷やしすぎるとかえって治りが遅くなるので注意しましょう。
 親知らずの状態は人それぞれですので、気になる方はまずかかりつけの歯科医院でレントゲン検査を受け、適切な診断を受けることが大切です。親知らずを放置することで、将来の歯の健康に悪影響が及ぶこともあるため、早めの相談をお勧めします。
■日本大学松戸歯学部付属病院☏047・360・7111(コールセンター)☏047・368・6111(代表)


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