
まわさなきゃ見えない、次のノブ - 中川敦瑛 –

日立台を包む大歓声が選手たちを迎え入れ、整列をした選手たちは2列になって集合写真を撮る。レイくんを交える以外は特にポージングなどを取らないのが柏レイソルの伝統的ルーティン。

様々な表情が並ぶ中になんだか楽しそうな選手がいる。幸せそうに微笑んで、まるでジュニア年代の選手のように写真に納まっている。
中川敦瑛である。
楽しそうなのは集合写真撮影時だけではない。
ピッチでも楽しそう…では済まないほど、手をつけられない選手になりつつある。
自分が狙われているならドリブルで剥がす。
行き先を塞がれたらターン。
歪みや隙間を見つけたらきれいなパスをスパッと差し込んでみせる。
たとえそこが河川敷のようなピッチであろうと、列強の猛者たちが迫り来ようとも。
きっとサッカー小僧だった頃からやっていることなんだろう。

「ノブにはテクニックのレベルの高さを感じていますし、完成度が高い。攻撃における貢献度がとても高い上に、守備でも貢献をしてくれている。素晴らしいパフォーマンスを見せてくれています」
R・ロドリゲス監督も中川をそのように賞賛するほどだ。
ヒリヒリするような覇権を競う上位陣との対戦の中でも、まあそれはそれは楽しそうにやっている。
くるりくるりと必要なドアノブをまわしている。
例えば、先の広島戦ー。
リーグを牽引するこの強豪を相手にしても、相変わらず見せ場を作ってみせた。そして、その上に試合後にはこんな頼もしい言葉付きだった。
「あの『強い広島』と戦ってどうだった?」
そんな言葉を投げ掛けた、その返し。
「攻守に素晴らしいクオリティの選手が揃っているのは知っていましたけど…自分はそこまでは思わなかったです。立ち上がりは勢いを感じましたけど、途中からは自分らしくできた。今日はセカンドボールを狙っていたので、それもできましたし。それさえできてしまえば、相手の強みは消えるはずだと。もちろん、強かったですけど…自分はいつもと変わらずにやれていた感じです。対人で来られても打開策もあったので、自分としてはそこまで難しくはなかったです」

悪戯に笑うでもなし、変に力むでもなし。
極めてフラットな抑揚でそう話したのだから、きっと本当の気持ちなのだろう。
それだけ言える選手だ。ここまでの歩みや貢献度も鑑みれば、もう立派な主力選手だ。だからこう話を聞いても構わないと思った。
「…では、何故勝てなかった?」
中川はやっと悔しさを顔に出した。
「チームとしての『強引さ』が必要だったのかなと思う。良い時はもっと人数をかけてゴールへ迫ることができていました。そこが最近の得点数に出てしまっているのだと思います。疲労や日程もあるとは思いますが、そこは関係ないし、もっと『強引さ』や『大胆さ』が必要。自分たちにはチームのスタイルがあることを理解しつつですが、足を振らないとゴールは生まれないと感じました。上位を争うクラブにはそれがあるように思う。もっと勝利にこだわりを持たなければいけない」
そう強く話すのにはワケがあるのだと思う。
課題としていた「不用意なボールロスト」は見られなくなった。守備でもしっかり貢献している。リボンの付いたパスだって放てる。信頼はプレータイムに表れている。ただ、ゴールが足りていない気がするのだ。
「自分もそこは頭にあるんです。監督からも強く言われています。自分もそこを見つめていかなくてはいけない。ゴールにこだわっていきます」
あまりにも全てを求め過ぎ?いや、絶対にそんなことはない。中川の口ぶりから察するに、目指すのは「より完璧なMF」で間違いない。

「落とすことができない試合が少なくともあと7回続きます。監督もチームも『勝利にこだわること』を共有していて、まさに求められています。きれいなサッカーだって必要だと思っているし、優勝するためには何がなんでも試合に勝つしかない。そこへはさらに『執念』が必要になる。このチームは誰が出ても同じことができることが特長。だから、全員で『ゴール』、『得点』という部分にフォーカスしていきたいですね」
メンタリティだって備わっているように思う。
針の穴を通すようなパスを放つのもいいが、一度、針の穴に細い糸を通す中川の姿を見てみたい…そんな「かわいげ」も魅力な中川だが、そこはかと放つ「貫禄」や「リーダーシップ」の欠片は彼のボールタッチと同様に天性のものがある。
だとしたら、今の背番号はちょっと大きいのかもしれない。
中川には意中の背番号があるという。
中川には「その数字」を背負う覚悟があるという。
中川を讃えるチャントもそろそろ欲しい。
ただ、今回そこへ言及するには文字数がちょっと足りなかった。
中川がすでに回してしまったドアのノブの数がちょっと多くて。
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