「歯科医師」や「歯科医業」ってなに?

日本大学松戸歯学部 歯科医療管理学講座  教授 小椋正之先生

「歯科医師」は、わが国の法律である「歯科医師法」によって規定されている国家資格です。歯科医師法第17条には「歯科医師でなければ、歯科医業をなしてはならない」とされ、また、歯科医師法第18条には「歯科医師でなければ、歯科医師又はこれに紛らわしい名称を用いてはならない」とされています。

「歯科医師」は国家資格で、業務・名称独占資格

つまり、「歯科医師」は、国が行う国家試験に合格した人だけがなれる国家資格であり、「歯科医業」という仕事を独占している業務独占資格、かつ「歯科医師」という名前も独占している名称独占資格ということになります。
歯科医師でない無資格者が歯科医業を行ったり、歯科医師等の名称を用いたりすると法律違反となり罰則が科せられることになります。

歯科医業の範囲はきわめて広く、変化するもの

 では、歯科医師の業務独占とされている「歯科医業」とはいったい何なのでしょうか。多くの方々は、むし歯や歯周病の治療をイメージされると思いますが、実は法律では「歯科医業」の内容については、全く何も書かれていません。
なぜなら、歯科医業の範囲はきわめて広く、歯科医学の進歩や歯科医業を取り巻く環境等によって変化するものだからです。また、歯科医業は「行為」そのものではなく「目的」によって決まることがあります。

歯科医師法によれば

例えば、口の中のがん、口腔がんを治療するために全身麻酔をかけることは歯科医業に該当しますが、胃がんを治療するために行う全身麻酔は、同じ行為だとしても、歯科医業には該当しません。ある行為が歯科医業に該当するかどうかは、個々の行為の目的や様態に応じて、個別具体的に判断することが必要となってきます。
 また、厚生労働省は介護現場等での混乱を防止するため、通知によって、原則として歯科医師法第17条の歯科医業の規制の対象とする必要がないものとして、次の2つを整理して、①重度の歯周病等がない場合の日常的な口腔内の刷掃・清拭(歯ブラシや綿棒又は巻き綿糸などを用いて、歯、口腔粘膜、舌に付着している汚れを取り除き、清潔にすること)、②有床義歯(入れ歯)の着脱及び洗浄を行うこと、と明文化しています。

歯科医学の進歩や社会のニーズによっても変化

 近年では、口腔と全身の関係として、糖尿病、循環器疾患、誤嚥性肺炎、早産低体重児出産、認知症、サルコペニアなど、口腔が様々な全身の疾患に影響することがわかってきています。
だからと言って、糖尿病や循環器疾患等に対する治療は歯科医業には該当しません。医業や歯科医業の概念や定義は一般的な社会通念に任されることが多く、過去の事例では、医療現場が変わってから、ルールが後追いで変化していくことが多いのではないかと感じています。
 これらのように、歯科医業の範囲が明文化されているものはほとんどなく、歯科医業の範囲は固定されていないため、今後も歯科医学の進歩や社会のニーズに合わせて変化し続けて行くものだと考えられます。

■日本大学松戸歯学部付属病院☏047・360・7111(コールセンター)☏047・368・6111(代表)

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