Podemos

私たちの柏レイソル、私たちと柏レイソルの2025シーズンも最終盤へ差し掛かっている。

もうここにきてとやかく記す必要もないほど、素晴らしいシーズンを見せてくれている。

強いてとやかく言うとすれば、リーグの順位表を下までスワイプする必要がないし、勝点の積み上げをイメージする際の心持ちは大いに変わった。まだ何かを起こす瞬間を見届ける目撃者の一部として在れていることがどれだけ誇らしいことか。また、カップ戦のトーナメント表を噛み締めながら、大会の最終日程に様々な思いを馳せることができるほどのシーズンだ。
「今週、また試合かよ」なんてボヤきながらも、その口元はニヤけている。

もちろん、この数年を支えてくれた選手たちや首脳陣、スタッフの方々への尊敬の念だって忘れてはいない。彼らたちがいなくてはこんな素晴らしいシーズンなんてなかった。

このような感謝を込めた前段をここへ残すのは、記事の書き手としてのスタンスを見失うほどの感情でいるから。
気持ちを整え、努めて慎重に書き始めたい場合の手法である。

さぁ、始めよう。

  

〜私たちのキャプテン〜

さて、この10月の2週目。レイソルはルヴァン杯ファイナル進出を懸けた川崎フロンターレとのセミファイナルのフェーズにある。とても重要な週である。

その第1戦は川崎のホームスタジアムであるUvanceとどろきスタジアムで開催された。

結果は1‐3で川崎の勝利。

この結果を受け、レイソルは2点差を背負う形で三協フロンテア柏スタジアムで開催される第2戦を迎えることとなった。いわば、90分+90分の2試合での「前半」を終えて、「後半」を迎える前に久しぶりのスタメン出場となった犬飼智也にマイクを向けさせてもらった。

私たちのキャプテンだ。

「今日の後半の自分たちの戦いを見てもらえたら、分かってもらえるはずだと思いますが、『自分たちがやりたいこと』をできている時は、相手が守備的にならざるを得ないほど『自分たちの時間』が作れていた。前半の失点で無理をしなきゃいけなくなったのはありましたが、どっしりと自分たちがやってきたことに自信を持って、焦れることなくやり続けることであのような試合にすることができる。自分たちがやってきたことに自信を持っていいし、強気でいい。自分たちレイソルはルヴァン杯でもJ1リーグでもタイトルにふさわしいサッカーをやってきた。それをもっと表現したいし、『強者』としてピッチに立っていい、そこまではできているので」

その凛とした表情は言っていた。
「まだ何も決まっていないよ」と。

守備の中心を担った犬飼が、「誰が出ても同じサッカーができる」というレイソルの中でどのような効能を見せるかは注目に値した。また別の結果に繋がりかねないシーンでのシュートブロックやカウンターの阻止、セットプレーから惜しいヘッドもあったが、ややナイーブに映った前半のレイソルを背負わざるを得なかったのも事実。どんな形で生まれた失点であれ、「入り」と言われる時間帯の2失点は試合展開を窮屈にした。

犬飼は自分の仕事ぶりに言及しながら、再び先を見据える。
その語り口は、傷の具合を軽くチェックしてからもう一度力みのないファイティングポーズをとるのかのようだった。

「今日のところは悔しさが自分の中に残ってはいます。この『3失点』という結果に対しては、CBとしては決して満足できる結果ではないですからね。ただ、自分は『いつ、その時が来てもいい』と準備をしてきたつもり。自分もそうですし、レイソルに所属しているみんなが同じ気持ちでトレーニングを続けてきた。レイソルの強さの源はそこにある。自分の中にも『みんなと一緒に努力を続けてきた』という自信がある。この気持ちを糧に、決勝進出が懸かる次の試合もその後のリーグ戦も最後までやっていくだけです」

試合後、犬飼は声援の鳴り止まないレイソルサポーター席を、端から端まで比較的ゆっくりと見つめてから一礼していた。
犬飼はあの時、何を見て、何を感じたのか。

「試合後の挨拶でサポーターたちが抱いている気持ちを肌で感じていました。彼らの気持ちも自分たちと一緒で、この準決勝戦を全く諦めていなかった。自分たちのことを、自分たちの決勝戦進出を本気で信じてくれていることを感じていた。もちろん、自分たちもこのチームを信じていますし、次の試合はこのチームを表現できると思っているので…あれだけの後押しをくれたのなら、自分たち選手というのは『やってやる!』と感じるものですし、自分たちはあの気持ちに応えなくてはならない。今日だけではなく、常に自分たちの力になっていますからね。その気持ちに応えなくてはいけない」

彼が歩んできたキャリアを見れば、サポーターたちの「声援」が持つ価値をよく知る選手の1人と言っていい。犬飼が切り取ったもの、感じたものに濁り気はないだろう。

思えば、今季は犬飼の「今年のレイソル、期待してください」という言葉から始まった。さらにその後には「最後は『犬飼がいて良かった』というシーズンにしますからね」とも話してくれていた文脈がある。
あれからずっとレイソルには期待をしている。キャプテン、あなたにも。

  

〜託したくなる男〜

2025年のルヴァン杯はこの選手のひと振りから始まった。

仲間隼斗である。

あれは春の青空が広がる沼津戦だった。

そんなとっておきの切り出し方で仲間へマイクを向けるも、少しの間、キョトンとしてから、「あ…そうだ。そうだった」と慌てる仲間。案外、そんなもんである。

第1戦、仲間はスタメン出場。古澤ナベル慈宇と交代するまで86分間のプレーだった。攻守に於ける献身性と意外性のある判断は際立っている。

仲間は第2戦に対してこう意気込んだ。

「日曜は決勝進出を見据えた『後半』になる。『最低でも2点差以上を』という中ではアタックに重きを置く戦いになるだろうと。でも、そこで仮に先制を許してしまうと、この試合はさらに難しくなる。そのあたりの『際』をしっかりと締めて臨まなくてはいけないという意味で、簡単ではない試合になると思っていて、『それって可能か?不可能か?』と問われた時に、チームのみんなからは『可能だ』と言えるものや、この壁や困難に対し『乗り越えられそうだ』という気持ちを感じている。なんとしても日立台で決勝進出を決めたい」

昨今の仲間はよくこんなことを口にする。

「チームとしてやるべきことはもちろんきちんとやるべき。だけど、それだけを続けるだけではいけないとは思っている」

それこそ沼津でのひと振りはまさにそう。パスを選ぶこともできたが、ボールを丁寧にセットして、慌てるDFたちと相手GKをしっかり見ながら迷いなく右足を振った。奇しくも川崎の先制ゴールもジャンル的には仲間のゴールに似通ったものだった。

「確かにそうですね」と頷いた仲間はここで改めて意思表示。

「試合の中で最初から最後まで、『自分たちらしい戦い方』はもちろん大事。リカルドも『自分たち以上のサッカーとパフォーマンスを見せているクラブはない』と自分たちへ伝えてくれている。だからこそ、『結果』が必要だと思うし、自分たちも『いいサッカーだよね』で終わらせるつもりなんてない。『らしさ』を大事にしながら、ゴールをこじ開けていく『運』。それらを手繰り寄せるプレーやパフォーマンスをしなくてはいけない。勝利や決勝進出への意欲は相変わらず高いです。『いいサッカーは強いんだよ』ってところを見せて川崎に勝ちたい」

仲間にも目に焼きついて離れない「光景」があるという。

「あの日、試合が終わった瞬間は、正直に言って、『2点差か』という気持ちだった。少なくとも、自分はね。でも、ホイッスルが鳴った後のファン・サポーターたちは『まだ終わってないじゃないか』、『まだ前半だ』という意志を見せていて、自分たち選手よりも先に次を見据えてくれていた。あの光景にはグッと来るものがありましたし、『そうだよな!』って思わされるほどの光景でした。次の試合はもちろん『自分たちのため』に戦うし、それに併せて『柏レイソルというクラブのために戦う』というものを表現しなくてはいけないという気持ち、『あの光景』を見た以上は」

仲間の全身全霊のプレーを見るたび、私たちの中にずっといる、「ナビスコのヒーロー」がダブることがある。彼の背中を見て育った仲間、何を託したくなる男である。

  

〜Podemos!〜

リカルド・ロドリゲス監督は来るべき第2戦に向けてこう言った。

「私は逆転できることを信じて疑いません。もちろん、成し遂げることは簡単ではないです。私たちはそのために『攻守に完璧な試合』をしなければいけない。だが、逆転できる可能性は高い。我々にはその能力がある。そう信じている。それを疑っていない。その力を引き出すためにも、試合までにより良い準備をしていきたいし、この試合を通じて、『この難しい障壁を乗り越える』という強いメンタリティを持つチームであることを示したい。私たちには今シーズン、難しい試合を逆転で勝ってきた経験もケガ人が増えても乗り越えてきた経験もある。今回は『2点差』という障壁を乗り越えなくてはいけないが、その障壁を乗り越えられる能力がこのチームにはある。私たちは逆転をして、決勝戦へ進出すると強く願っています」

この日の会見はクラブハウス内のミーティングルームで行われた。この部屋で、この距離感で、この熱意で、この言葉たちで選手たちを「その気」にしてきたはず。

恥ずかしながら、これらの言葉を聞き、私はもうすっかり「その気」だ。R・ロドリゲス監督に「Podemos(我々には可能だ)!」と言い返すべきだったと後悔している。

そして、「当日、サポーターにはどんな光景を作り出して欲しいか」を問うた。この会見に彼ら彼女らを招くことはできないが、R・ロドリゲス監督はまるで彼ら彼女らに問い掛けるように言葉を続けたのだから、それを伝えることが私の仕事だ。

「私たちのサポーターたちは常に素晴らしい。彼らは今シーズン、どんなホームゲームでも素晴らしい後押しを見せてくれた。また素晴らしい雰囲気も作ってくれてきた。彼らの存在や姿勢は毎試合、私たちの力になっている。日曜日はいつも通りに選手たちへ声援をもらいたいと思っていますし、それが今まで以上の声援や後押しとなるのなら、さらに選手たちの力になるのではないかと思っています」

…ああ、言ってしまった。聞いた以上は、言ってくれると思ってはいました。

あの群衆たちは必ずやってくれると信じている。きっとR・ロドリゲス監督もそれを望んでいるし、「選手たちの力」を引き出す前に「群衆の力」を引き出すことに成功した音が聞こえた気がする。

さらに「選手たちだけでなく、我々チームスタッフ、クラブ関係者。そして、サポーターたちが力を合わせて勝利というのは成し遂げることができる」とまで言っていた。

どんな時も、彼ら彼女らが動き出す判断基準、声を張り上げ、手を叩き、旗を振り、気持ちをメロディに乗せる条件は常に「それが柏レイソルのためになるのなら」。絶対にそこだけは譲らない。私もそれをよく知っている。

さあ、舞台は整った。

今週の取材でマイクを向けた3人が「できる・可能だ」と言ってくれたんだ。

この感情・私情が散らかった記事をまとめながら気がついたのは、何よりきっと私自身がその言葉たちを求めていたのかもしれないということだった。

そんなことにこれだけの文字数を使ってしまったことを謝りたいが、実は読み返しをしてみた結果、結構気に入っている。だって、いつか再読した際に「おまえ、心のどこかに『ビビり』があったよな」とできるから。

そんなことはいい。

第2戦がどんな結末になるのかはまだ分からない。

ただ、ストーリーの序盤というのは少しばかり暗くて重いくらいのスタートがちょうどいい。

この記事を書いたライター

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