「打て!打て!打て!」ー瀬川祐輔 Vol.3
試合に出れば、たとえ本人の手ごたえとは違っていても、確実に「見どころ」を作ってみせた。
特に途中出場の際には明らかにスタジアムのムードを一変させた。ノーメイクでも「ジョーカー」だった。それほど鹿島戦の一撃は特別なものだった。
スタッド・ランスとのプレシーズンマッチでも見事な仕事を見せるなど、結果や気概、その影響力を携える形で、「ジョーカー」役として浮上してきた。起用傾向としては垣田裕暉と細谷真大の2人とMF陣を繋ぐ、「シャドー」。
この頃はコンディションに不調を感じていた小泉佳穂が離脱中ということもあり、重要な作業を担っていたが、安心の選択肢としてチームの躍進を支えた。
瀬川はのちにこのような解釈を話してくれた。
「岡山戦を経て思うのは、自分の場合は『最前線』にいる方が『良さ』という意味では出しやすいのだと思いますけど、岡山戦で『シャドー』をやってみて、自分の理解と監督の要求のところで、お互いの少し認識が異なっていたので、コミュニケーションをとった。今日はまず、『最前線』で起用され、マオが入ってからは『シャドー』として、『ボールに関わる』ところを強く意識していた。どちらで起用されても結果を出したいことは変わらない」
瀬川の『シャドー』解釈は徐々に解答の質を上げていった。特に印象的だったのは8月の湘南戦と浦和戦。奇しくも岡山戦を挟んだ日程の試合。

まず、湘南戦ではタイミングの良い顔出しからMF陣からパスを引き出して、「ボールに関わる」こともそう、チームのために適切なハードワークだって適材適所…ただ強いだけではなく『適強度』で発揮。
中盤ではシンプルな選択からビルドアップに関わり、チャンスと見るや細谷と中川敦瑛と小西雄大の見事なリボン付きのラストパス、そのラストタッチを巡る「世界陸上」では惜しくも僅差での銅メダル。「ゾーンごとに自分のプレーを変える」という解釈を示してみせた。
その感覚を持ち込んで臨んだ岡山遠征では良い結果を得られなかったが、このタイミングでリカルド・ロドリゲス監督との間で「シャドー感」を微調整。どのつまみを絞り、どのつまみを上げ、するべき表現のボリュームは定まったようだった。
「言えないこともあるけど、『シャドー』に入ったら、ゾーンによって選択を変えていかないといけない。『自分の良さ』よりも『チームのために』という感じ。『プレーゾーンごとに自分のプレーを変える』ということですかね。より頭を使ってプレーすることを再認識したところです」
浦和戦2点を追う後半から起用された瀬川が4ゴールでの大逆転勝利のトリガー役となった。最前線での起用なら「ゴール」で結果を出した。そのゴールの時間やインパクト、勝負強さも印象的だったが、このゴールシーンについて話す瀬川の様子がおかしい。
「あの時、トラップしてましたか?流れていた?相手に当たった?当たってない?いいトラップしてた?…トラップしたかを全く憶えていなくて。自分の横にホイブラーテン選手がいて、彼に体を当てながら、『自分の空間』を作るつもりだったので。無意識に足が出てトラップしていたのかな?…目の前にあったボールをGKに当たらないように蹴りました。他のチャンスもGKに当たらないように蹴れたらよかったんですけどね(笑)」
試合を通じて目を覆うような激突シーンなどはなかったところから察するに、あの瞬間の瀬川はいわゆる「ゾーン」の領域にあったのか、記憶はなかったそうだ。聞かれたこちらが試された。

「自分に求められていたのは『ボールサイドへ関わること』。真ん中に居過ぎずにボールへ関わって欲しいという指示はありました。自分の得意なプレーというか、そのあたりを評価してくれた形で、今日はマオよりも先に自分を起用してくれたのだと思う。それを受け意識していたのは『相手よりも早くゴール前へ入っていくこと』。それと『点を取ること』という、その2つ」
それにプラスして特筆すべきは「細谷との相性の良さ」か。
83分の細谷の同点ゴールは、瀬川が「2トップの1枚」として臨んていたとしたら、また別のシナリオがあったかもしれない。「シャドー」として臨み、このチャンスやこの1試合だけでなく、上位を戦うシーズンを見越した意味で「チームのために」、細谷のゴールを導く必要があった…なんて言ったら良い過ぎか。
いや、そんなことはなさそう。瀬川からも「今のマオは誰もが認める『レイソルのエース』」、「マオのゴールをアシストするのも自分の仕事だと思っている」と何度か聞いているし、最も記憶が過るのは次のシーン。
浦和戦の後半、瀬川と細谷がクロスするように1つのボールを巡って交錯したかのように見えたが、瀬川は加速しながら飛び込んでくる細谷にボールとスペースを託していた。その後に起きた出来事は周知の通りだ。皆まで言わない、私たちが大好きなあの歓喜の瞬間だ。
またこの後の福岡戦では見方によって様々な印象を残す興味深い出来事があった。
それは「2つのPK」を巡るストーリー。
「マオは1本目の時に『蹴っていいか?』を聞いたっていうじゃないですか?個人的にはそんなのいらないなって思うんですよ。レイソルはマオがPKを全部蹴るし、決めるっていう。それでいいはずなので。しかも、2本目はマオが自分でPKをもらっているんだからって、尚更、『マオが行けよ!』と思って喝を入れた…っていうか、蹴るのか蹴らないかを迷わないように、少しでも隙を与えないように、最初に言ったしね、すぐに『蹴っていい』と」

前半に小泉が獲得したPKを細谷は外してしまっていた。後半に再び訪れたPKの機会、ビデオ・アシスタント・レフェリーでの確認や福岡の選手交代で生まれたタイムラグの際にひと呼吸置きに来た細谷を捕まえた瀬川はそんなやりとりをしていたという。
エースは蹴る気満々ー。
しかし、R・ロドリゲス監督や栗澤僚一コーチを中心に何を言っている。ベンチからは何やら重要なメッセージがありそうだった。
「ずっと監督たちが自分に何かを言っていて、最初は相手の交代もあったから、CKのマーカーのチェンジかなと思っていたんですよ。でも、まだ何かを叫んでいるから、聞きに行こうと」
そのベンチへの道すがら、あるチームメイトから「ベンチは『瀬川が蹴るように』と言っています」と聞いた瀬川はようやくメッセージを理解したという。
「こればかりはしょうがないじゃないですか?だから、自分からマオに『オレが蹴れってさ…』と伝えましたよ。『ここはもう楽しもう、この時間を』と。蹴るところも決めていた。外す気もしていなくて、『蹴れば入るよ』とは思ってたんで。あとは走り出すタイミングとか、その前にする深呼吸とかね、自分のPKのルーティンを間違いないようにっていうことだけを考えて蹴りました」
瀬川はこのPKを見事に沈めメインスタンド側へゴールセレブレーション。駆け寄った細谷をしっかりと抱きしめていた。

9月のルヴァン杯準々決勝第2戦で見せた瀬川の「ひと手間」も素晴らしいものだった。
惜しいチャンスを繰り返しながら、一進一退の展開。瀬川自身のチャンスに顔を出して相手ゴールを脅かした中、何度か溜息に包まれながら顔の汗を拭い歯を食いしばってはいたが、存在感や違い、チャンスのクオリティの差は歴然。
最も素晴らしかったのは90+1分に生まれることになる戸嶋祥郎のゴール、そのほんの10秒前にあった「ひと手間」だ。相手の狙いをあざ笑うようなあの絶妙な「ひと手間」を施して、古賀太陽からのロングフィードを回収。相手DFを引き連れながらゴール前へ猛ダッシュ。その瀬川の背後を埋めた戸嶋が見事なフィニッシュを見せて揺れる三協フロンテア柏スタジアム。
その瞬間、たとえ、小泉が礼賛する「瀬川チャント」が響き渡らなくても、完璧な仕事を果たして喜びの輪を生み出して、その中にいた。
だから、「振り返ってみましょう」と改めてマイクを向けた。
「マイボールになって、ジエゴからDFラインでボールを持っていた時だったかな?」
瀬川の面白いところは聞き手のこちらがシーンの「頭出し」をできれば、その後に混ざりっ気なしのストレートなプレーレヴューをくれるところ。
「なんであの位置にいたかはよく覚えていないけど、CBのキニョーネス選手の位置は把握していたので、彼の前、縦で待つよりも、彼と横並びになる待ち方をしていた。『一瞬だったら付いてこないだろうな』と。そんなことを思っていたら、太陽と目が合って、あの瞬間、『きっと太陽もそろそろ長いボールを蹴りたいだろうな』と思ったんで。その一瞬を逃さないようにしてあげること、自分のアクションも明確にしてあげることは大切で、自分の目の前にスペースがあるのは分かっていたんで、あとは『適当なボールを出してくれたら』と」

このような瀬川流の言語化やプレーレヴューを頼りにする1人の記者として「最も味がするくだり」となるところなのだが、その後、戸嶋のゴールに繋がるこの「ひと手間」を巡るシーンでの「プレー選択」、その言語化に現在の瀬川が放つ、「クオリティ」や「幅」を感じるし、瀬川が常時起用される理由を見た気がするのだ。
もう、マイクを向ける側からしたらその言語化や再現力やニュアンスに白眉の連続、喩えるならちょっとした「味変」だった。
「シャドーの位置から、太陽からのあのボールを『トラップなのか・落とすのか』のところですね。自分がキニョーネス選手を一瞬外していて、彼を左へ置いていることで、まずは右足にトラップができるんですよね。右にトラップをしたら、相手に対してボールを隠しながら前進はできるシーンではあるんだけど、ボールを落としやすいところに仲間隼斗くんがいたから、『トラップなのか・落とすのか』のどっちの確率が高いのかの話で、隼斗くんが長いパスを蹴る気もしていて、ああなりました…たまに思うんですよ。例えば、自分をね、『ワントップで使ってくれたら、そういうことができますよ』って。レイソルに戻ってからまだないから、ワントップでの出場は。とは言っても、自分はリカルドから望まれた場所でプレーするだけなんですけどね(笑)」
そう当たり前に話してくれた瀬川のプレーレヴューを聞きながら思ったことがある。
事後というタイムラインはまずあるが、プロフェッショナルたちは瞬時にこれだけの選択肢を用意できて、選択を実行し、かなりの確率で成功させる。しかも、あの複雑なポジションチェンジを繰り返し、また瞬時の選択を迫られる、その連続だ。しかも、手や足、頭がゆく手を阻み、状況や情緒は常に異なる。天候や芝、灯りも異なる。いつも同じボールが足下へ届くわけではない。それでも成功をしなくてはいけない。そのことはこの時期に改めて刻んでおきたい。
…しかし、このルヴァン杯を境に突然いなくってしまった。
メンバーリストに「瀬川祐輔」の名が載らない試合が続いていたある日の練習取材日。「おつかれさまです」と挨拶を交わす際も表情は曇っていた。その後にあった取材日の中で、髪型が無操作な日、セットされていた日、見かけない日、汗をかいていた日、芝や土汚れを付けていた日など経過しての10月のG大阪戦で時間制限付きの戦線復帰。

知る限り、リーグとカップの計7試合を欠場。特別な感情で臨むはずであっただろう2回の等々力遠征もあった。この間にチームが積み上げた勝点も「7」。想像を超えた色んなことが起きて、国立競技場へのチケットも手にしていた。
「チームが苦しい9月に離脱してしまった。これまで何回かケガとリハビリを経験してきましたが、今回の離脱がメンタル的に一番辛かった。気持ち的に自分の中で消化をできていなかった時期は長かったです」
察して余りある心情、その手前に迫った以上は「何を?」、「どんな?」という問いを投げ掛けざるを得ない。
「引き分けが続いたり、チームが苦しんでいる姿を見て、『自分がいたなら…』といか気持ちが強かったんですよね。横浜FM戦で自信を持って戦えていたチームが川崎を相手にまた苦しんで。チームのメンタル的にどっちつかずのような時期が続いていたように見えていた分、『自分がいたなら…』という思いを押さえ込むのが大変ではあって、でも、チームは川崎に逆転勝ちをして、出られていなかった選手たちも活躍をして、山之内佑成のような新しい選手も出てきて、また競争は起きている、その中で生き残っていかなくていけないですね」
強く明確な意志と共に戻ってきた。全ては順調に進んでいた中での小離脱。気づけば季節も移ろい、リーグ首位へ挑むチャレンジャーたちは少しずつ失速していき、レイソルが歩むべきストーリーがより鮮明になったタイミングでの復帰だった。正直言って「あとは頼みます」という気持ちだった。

絶対にスタメンだと思っていた、あの「大舞台」やいくつかの「決勝戦」が待ち受けたこのタイミングで、練習後や試合後の囲み取材を活用したこの連載では回収し切れない瀬川の思考や心情に迫りたく、柏レイソルへ瀬川のインタビューを打診させてもらった。
次回は瀬川祐輔単独インタビュー、「打て!打て!打て!ー瀬川祐輔特別編」をお送りする予定だ。
(記事・写真=神宮克典)
