歯の形に潜む病気のサイン③
DRリポート264
気づきにくい歯の形の落とし穴 ― エナメル結節とエナメル滴 ―

日本大学松戸歯学部 解剖学講座 教授 塩崎 一成先生
歯根の近くに現れるエナメル質
歯の表面を覆うエナメル質は、本来、お口の中に露出している部分、いわゆる歯冠部に存在する硬い組織です。しかし、ときに本来エナメル質が存在しないはずの歯根の近くに、エナメル質がみられることがあります。歯冠部のエナメル質が歯根の分かれ目(根分岐部)に向かって伸びているものを「エナメル突起」、歯根の表面や根分岐部付近に小さな粒のようにみられるものを「エナメル滴」と呼びます。(図1)

これらは、とくに奥歯、いわゆる臼歯にみられることがあります。見た目には小さな出っ張りや粒のような構造で、それ自体が痛みを出すことはほとんどありません。そのため患者さん自身が気づくことは少なく、歯科医院での診査やエックス線写真などで偶然見つかることが多い構造です。
問題となるのは、エナメル突起やエナメル滴が歯周病の進行に関わる可能性が高いことです。歯根の表面は、本来、歯肉などの歯を支える歯周組織と調和するようにつくられています。
しかし、その場所に硬いエナメル質が存在すると、その周囲に汚れがたまりやすくなったり、歯肉との境目に炎症が起こりやすくなったりすることがあります。特に臼歯の根分岐部は、もともと歯ブラシが届きにくく清掃が難しい場所です。そこにエナメル突起やエナメル滴があると、歯周ポケットが深くなりやすく炎症が進行する一因となる場合があります。つまり、小さな形の違いが歯を支える組織に影響を及ぼすことがあるのです。(図2)
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痛みがないまま症状が進んでしまうことも
エナメル突起やエナメル滴のやっかいなところは、それ自体がう蝕、いわゆるむし歯のように強い痛みを出すわけではない点です。自覚症状がないまま歯周病が進み、気づいたときには臼歯の根分岐部に病変が広がっていることもあります。歯肉の腫れや出血、奥歯の違和感がある場合には、歯の表面だけでなく、根の周囲の形にも注意して診てもらうことが大切です。
歯の病気は、歯みがき不足や生活習慣だけで起こるものではありません。歯の形や、歯の根の表面にある小さな構造が、将来のトラブルに関係することがあります。普段は見えにくい場所にある形の違いも、歯科医院での定期的な診査によって早期に発見できることがあります。
「痛くないから大丈夫」と思っていても、歯や歯肉の奥では変化が進んでいることがあります。歯の形に潜むサインを見逃さないためにも、定期的な歯科受診が大切です。
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