吉法師 読書案内いのちの糧 良書吉日

『おれたちの歌をうたえ』 呉 勝弘 著 (文藝春秋社刊)

 本作の主人公は小学校6年時の仲良し五人組だ。この五人は当時「栄光の五人組」といわれる活躍を見せた。挙動不審の二人組を追い詰めて手柄をたてたことからこのミステリーの扉が開く。

 五人組とは河辺久則、五味佐登志、外山高翔、石塚欽太、竹内風花である。このうちのひとり五味佐登志が亡くなって、彼が隠したと思われる金塊の行方を追って物語が進んでいく。舞台は長野県。真田町、松本市、長野市の信濃と、東京を縦横に駆け巡る。小説の構成は、彼らの小学校時代、高校時代である昭和と、成人して22年ぶりに再会する平成、そして現在とを行きつ戻りつ描きながら進む。  

 少年時代、仲良しだった仲間が成人してそれぞれの環境で人生を創り上げていく。しかし、その成長が昔の契りに少しずつのずれを生じていく。五人の生きざまと、彼らを取り巻く人々のあり様が物語の重要な要素だ。

 亡くなった佐登志の持ち物である一冊の文庫本に五行詩がペン書きされていたことから、それが金塊探しの暗号となってその解明を推理していく。主人公の河辺の退職、離婚、帰郷、再上京などを織り込みながら五人組の一人ひとりの成長と変化が丁寧に描かれる。

 本作は2021年、直木賞にノミネートされたが、残念ながら受賞はならなかった。しかし、青春時代に描いた理想像が時を経て現実味を帯び、その像が崩れ去る苦い経験。青春の思い出との対比で描かれている。

 一緒に金塊探しをする二人の若いチンピラが、主人公の河辺と行動を共にすることで、再出発へと向かうきっかけを掴む。まさに新しい矢が希望の空に放たれる瞬間のごとく、このミステリーに清々しい爽やかな後味を残してくれる。

■吉法師
 漁師町の生まれ。青春は陸上競技に明け暮れ、その後、トライアスロンにも挑戦。中学生時代、国語教師への憧れから、読書に目覚め、今や本の虫。

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