ちゃんとしている人ー永井堅梧
シーズン開幕と共に出版される選手名鑑。
その表紙にはリーグを彩る各クラブの選手たちが並ぶ。
柏レイソルなら古賀太陽や小泉佳穂、細谷真大も常連選手の1人。
各社の選手名鑑が出揃った2月。その中の一冊、2026シーズン版「エル・ゴラッソ」社製選手名鑑の中に見慣れない…と言ったら失礼か。えらくギラギラした選手が「抜擢」されていた。
「他クラブの友達から連絡が来て知ったんですよ!なんで表紙に?大丈夫なんですか(笑)?」
自らを指差して、そう笑っていたのは永井堅梧。
しばしの談笑の最中、「サッカー選手たちの中に1人だけ、『ろくでなしBLUES(1988・集英社)』から出てきたような選手がいますね?」と指摘すると、「え?ホントに?…ホンマや!」。
そう笑ってクラブハウスへ引き上げていった。

だが、これだけでは終わらない。
言語化すると、「ダハハ!」や「わはは!」というような豪快な笑い声と共に、「ごめんなさい!許してー!」と謝る永井の声。目測だが、クラブハウスまでは40mはあるだろう。どこかの動画配信プラットフォームかのように、その笑い声が文字化されて目の前を飛び去っていった。
どうやら、レイソルの選手たちのウェアの洗濯を担当されている裏方の方々に、背中まで泥だらけになった練習着を見られてしまったようだ。要するに「またやったの?ケンゴは」ということだ。
おそらく、読者のみなさんにはこのあたりのエピソードがなんの意外性もなく受け取ってもらえることだろう。昨夏の加入直後からピッチサイドで見せている永井の「男気」をサポーターたちが知っているから。
戸嶋祥郎に「自分もレイソルに長いこといさせてもらっていますけど、加入直後から自分より前から在籍しているかのような振る舞いを見せている男」と言わせた存在感は常に圧巻だし、ひと度チームメイトが傷つけられたらベンチを飛び出していくし、ゴール後の祝福ムーヴなんて指折りの速さ、ファン感謝デーでの「名司会」ぶり、スタジアム訪問イベントにやってきた園児たちに「こんにちは!ケンゴリアンだよー!」と自己紹介したムービーなども手伝って、すぐにサポーターのハートを掴んだ。レイソルを報道している記者たちの中にも永井を愛する「ケンゴリラー」は多い。
もう、漫画である…ここまでは。

しかし、彼の生業はプロサッカー選手。
埼玉に生まれ、日本中のクラブで背中まで汚しながら渡り歩いてきたゴールキーパー。リカルド・ロドリゲス監督とは2019年の徳島時代以来2度目の仕事となる選手。
昨年は光の速さで独特な存在感こそ示したが、公式戦出場はなし。
しかし、出番が来た。
「明治安田Jリーグ百年構想リーグ」地域リーグラウンド第2節・東京V戦。
開幕戦の雪はどこへやら、永井を照らすかのような陽光が差し込む三協フロンテア柏スタジアム。レイソルサポーターたちが叫ぶ、万雷の「永井コール」に力ずくで包まれるように登場した永井。ゴールマウス内での立ち姿も勇ましかった。
試合前にいつも見せていた低空で鋭く伸びていくキックで好機を作るなど、小島亨介や松本健太とはまた違う個性を見せた。
永井はその狙いをこう話した。その声色はかつてなく冷静で真剣だった。
「試合へ望む分析の中で、東京Vの特長は『ハイプレスからのショートカウンター』という分析があった。リカルドとしては『その特長を消したい』という狙いがあった。その1つの方法として、『ロングボールを増やしていくことで消していきたい』というコンセプトがありました。そういった『入り』を求められた中で、自分のキックの精度はもっと上げていかなくてはいけないなと思いましたし、久しぶりの試合で力んでいたところも無くしていきたい。悪くない狙いだったし、ビルドアップも問題はなかったと思う。『ゴールキックからマオへ』という大胆なキックも練習の中から準備をしていました。それを含めて、チームのコンセプトに則ってのプレーはできていた」
小泉佳穂のゴールで先制した試合だったが、後半にはセットプレーとロングシュートから失点。残念ながら勝利はお預けとなってしまった。
ただ、試合後の永井の様子はどこか輝いていた。少なくとも、私にはそう見えた。
「あのシュート…触れんかー、オレは!」
そんな悔いを口にしていたが、その言葉たちとは裏腹に輝いてしまっていた。

もう、それはしょうがない。
たくさんのGKと出会ってきたが、「セカンドGK」を目指して、チームメイトと違う色のユニフォームに袖を通したGKを私は知らない。語弊や誤解が生まれてしまっていたとしても、私は受け入れたい。どこからどう見ても眩しかった。さらに最終的には、「この前の学校訪問…そう!『しま専科!』…実は『もっとできたよな』って思っていて…」という話まで。
後日、仕切り直しをしてから、改めて東京V戦について聞かせてもらうと、「試合はチェックしましたよ」と永井。話は「あのシュート」へ巻き戻った。
「2点目になった、あの終盤のシュートに関しては悔しさを感じています。ボールの失い方がほぼアクシデントのようなところから生まれたシュートだったこともあり、自分が準備するタイミングが遅れてしまっていた。悔しいけど、あのプレーはそこが全てだった。自分が『あの瞬間』を予測できていれば、ボールに触れたはずだし、触れていれば、ボールの軌道や角度が変わって、ゴールの枠からも外れたかもしれないから。あの『もうちょっと』のところで、あのボールに触れなかったところに、『自分の隙』感じたというか…自分の改善点を挙げるとすれば、『シュートを打たれる前の準備』になるんだなと。本当にそこが全てだったので」

試合でのプレーへの本音から永井がここにいる理由や人間性を見た気がするが、「人間・永井堅梧」としての喜びが垣間見えたのは、背中に感じた「彼ら」からの気持ちについて言及してくれた瞬間だった。
「ようやくレイソルで出場することができたことはホッとしていますし、個人的にも大きな出来事だった。勝てていたらよかったですね。『勝てたゲーム』でしたし、『勝たなくていけないゲーム』だったっと思う。間違いなく、たくさんのファン・サポーターの人たちが自分を後押ししてくれていたから、試合の中でもたくさんの人たちの歓声を直接感じることができたことはうれしかったですね。背中から感じる『一緒に守ってくれているんだな』という迫力や感触はすごくありましたから」
ストーリー的には理想とは違ったかもしれないが、ようやく「柏レイソルの永井」としての一歩目を踏み出した。「さあ、次は?」と話を向けると、間髪を入れずにこう答えた。
「そこはもう、『勝ち、一択』ですよ!内容もそうですが、自分にとっての『レイソル1勝目』にこだわりたいと思っています。『レイソルに来ての第1章』っていうんですかね。それを手にできたら、自分にとっても大きなことなので」

聞けば、このハーフシーズンでリーグの各選手が残した記録は公式記録には残らないという。その奇妙なレギュレーションも受け取り方次第でなんとかなる。
確かに永井は「レイソル1歩目」を残した。知っている。私たちはそこにいた。
だが、まだまだ「ちゃんとやっていれば、なんとかなるよ」ということになる、そんなシチュエーションに永井はいるような気がする。それこそ、「試合」も「学校訪問」も。
だから、ちょうどよかったよ。
思っていた以上に読みがいがあり過ぎて、永井の「レイソル第1章」のページをめくる手が遅れているんだから。
今、必死に読んでいるのは、まだまだ冒頭部分。
私たちが君のことを気になってしょうがなかった、「オンフィールド・レビューは『永井の時間』なのである」のあたりだから、もう少し時間が掛かりそうだ。

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