「あざとさ」のノブー中川敦瑛
昼下がりの日立柏サッカー場。
「39」のユニフォームを片手に列を成すファン・サポーターのために笑顔でペンを走らせていたその合間。
「ウチの両親が自分の列にガチで並んでいたんで、ビックリしましたよ、『当たったよー』って(笑)」
そんな微笑ましいファン感謝デーを過ごして、2025シーズンを終えたのは中川敦瑛。
きら星たちが居並ぶレイソルのMF陣の中でも、どちらかといえば、クラッシックなスペックを存分に放って、MF陣に続出したアクシデントを救っただけでなく、「通算29試合・5ゴール」という見事な成績を残してみせた。試合後に「今日ですか?…特に難しいとは感じなかったです」と嫌味無く言い放っていた姿も未だ記憶に新しいほど。その輝きぶりに2026年のチーム立ち上げの際には中川の海外流出を危惧したサポーターも少なくなかった。
「でも、そんな『夢のような話』なんて全く無かったですよ!」
そう笑いながらも、中川の体は堪えていたようだ。傍目にはそこそこに見えてはいても、経験したことのない気持ちの張りからのリバウンドが中川を襲っていたという。
「年末にダウンしてしまって、体重が落ちて、自主トレも満足にできていなかったんです。指宿キャンプもスタッフと体の様子を見ながら、徐々に強度を上げていくような状態で、監督からも『昨年のレベルを取り戻すように』と少し厳しい言葉をもらったところです」

余りにも現状の調整遅れを吐露するものだから、少し心配をしながら、興味深く「ちばぎんカップ」を取材してみれば、見事なミドルシュートで先制ゴールを決めるなどの活躍を見せた。
こちらを心配させておいて活躍をする、この「あざとさ」や「緊張と緩和」に身を任せて酔ってはみたが、その翌週に開幕した「J1百年構想リーグ」では、いつも通りに飾らない笑顔で集合写真に収まってはいても、「らしさ」や「違い」を披露するまでには相当な時間を要した。
とはいえ、そこまで「重症」には映っていないのは事実なのだが、このあたりは中川にある責任感の部分と言えるし、本人然り、見守るサポーターも然りで、「記憶との戦い」だとも感じるものがあるのだが、定期的に中川の言質を取ってみると、実に3月下旬の代表ウィークのあたりまでは足にまとわりついた足かせからの解放には至らず、「難しい」と感じていたようだった。

まず、昨年あれだけ輝いた。今や小島亨介や古賀太陽、小泉佳穂と並ぶ連続出場をしている選手。対戦チームが施してくる様々な「対策」も「警戒」もあるのだろうが、「問題の本質はそこじゃない」気はしている模様。この賢さと、この状況で向ける矢印の方向は重要だ。
では、何が起きていたのだろうか。中川はこう振り返る。テーマは「心の内側」の話だった。
「正直言って、浦和戦くらいまでは自分のプレーに納得していなかった。でも、チームスタッフのみなさんからも『自信を持って。ノブはやれるから』って送り出してもらっていたり、『ずっと前向きな言葉を掛け続けてくれたことが自分の状況を挽回できた要因』だと思います。まだまだベストには程遠いのは事実ですけどね。コンディション面がまずあって、それよりも大きいウェイトを締めているのはメンタル面。主に『自信』の部分。自信を持ってプレーすることができていないのはあります。自分とも会話しているんです。言い聞かせているんですけどね、『やればできるよね』って」
大谷秀和コーチからは「ノブもそろそろ、『そういうこと』を跳ね除けていかなくちゃな!」と尻を叩かれ、イ・チャンウォンスカウトに対しては「…無理っす」と弱音を吐いて、「大丈夫だよ、ノブならやれるから!」と励まされていたという。あの大胆で想像性に満ちたプレーとは裏腹の繊細さをやや拗らせていたようだ。
中川が新しい自分の姿を見つけたのは3月の浦和戦でのワンプレー。
立ち上がりの5分頃にあった左足でのミドルシュートだった。

「自分たちは相手が開けたスペースを突いてコンビネーションで崩していきたいわけで、スペースを作るには『相手を引き出すこと』も必要ですし、ミドルシュートは効果的。『ミドルシュート』を相手が持つ自分の印象の中にインプットしておきたいです。入らなかったですけど、思い切って足を振って、そこから試合を始めることができたので感覚的にも良く、シュート自体の感触も良かったので続けていきたい。あとはどれだけ『成功体験』を増やせるか。増えてくれば、自分も安定もしてくるはずなので、とにかく『自分のプレー』を続けたい。ちょっと相手の選手たちをリスペクトし過ぎているのかもしれませんね。大切なことですけど、昨年の自分ならそこまで意識をしていなかったはずだから」
中川にとっては「幼い頃から観客として何度も足を運んできた」というスタジアムで自分を取り戻すきっかけを掴みつつはあったが、その分の代償も払っていた。
「浦和戦は前半から『これは90分保たないな』って思っていて、普段とそれほど変わらない強度だったとは思うんですけど、連戦の疲労もあるのかな?サヴィオと対峙する機会も多くて、試合のプレースピードも速かったので、いつも以上の力を使っていたのかも。昨年の自分たちはもっとボールを持てていたし、相手を見ることができていた。相手を見てボールをキープできていた。今はまだ『急ぎ過ぎているな』と思うところもあるんです。チームを良い方へコントロールするのが自分の役割。しっかりと心と体を整えて戦っていきたい」
ミドルシュートというアイデアがすぐ実を結んでしまうのも中川の素晴らしいところ。水戸戦ではまた試合の立ち上がりにアウト回転の25mの一撃を沈めてみせて、上向きな印象を残した。
「ボールを受けた瞬間、相手の陣形が結構引いていて、良い位置にボールを置けていたし、『打つしかない』と思った。今日はうまく入ってくれましたね。自分も『入っているよな』と思っていて、佳穂くんが『入ってるよ。確認してるよ』って言ってくれていて、もうその時点で監督からの指示が出ていて、みんなでその話をしていました。シュートが入っている前提で、守備の修正についてをチームと共有していました」
ちなみに「…無理っす」のあとに返ってきたのは「もっとどんどん足を振ってもいいんじゃない?」というささやかな助言だったという。その日の日立台での練習と埼玉スタジアムで1つの助言を形にしてみせた。
コレクティヴな水戸のサッカーに守勢を強いられる時間もあったが、守勢の中でも「前へボールを入れてくることは予想していたので、インターセプトを狙う時も『どこが空いて、誰がどこにいるのか』を確認できていた」というしたたかさも中川の良いところ。自陣深くでの守勢から一転、巧みにボールを運びながらカウンターを生み出していた姿も、どこか少し前とは違っていたように見えていたし、前半は原川力、後半はルーキーの島野怜という新たな相棒たちとの出会いも中川を刺激しているようだった。
「後半は少し受け身になり過ぎてしまったかなという感じはありました。フレッシュな選手が入ってきて、そこでのギャップは少しあったのかなと思うので、うまく自分とレイだったり、後ろの選手たちで声を掛けて、『行く場面』と『行かない場面』をもっとはっきりしないといけなかったのかなというのは試合を振り返ってみて思います」
4月の初戦となる5日の横浜FM戦でこのリーグは折り返しを迎える。中川は一度このシーズン前半戦を振り返ってくれた。
「今シーズンのここまで、自分自身が納得できる試合は1試合もありませんでした。今日も点は獲れましたけど、ミスはたくさんあった。要所要所突き詰めていかなくていけない事ばかりですからね、次の試合へ向けて整理を進めていきたい。やはり自分たちが『優勝』を目指しているその中で、なかなか勝てない時期も続きましたが、これからどんどん『勝点3』を取って、『レイソルがいるべき場所』に戻れるように少しでも貢献していきたいです」
水戸戦での完封での快勝という結果も手伝ってか、ようやく前向きな捉え方をしてくれたように思う。高いアベレージでのプレーはできている。例えるなら、様々なドアノブを回してきた現在の中川は「ただの活躍では満足してもらえらない選手へと」というドアノブを回そうと手を尽くしているといったところか。
だとしたら、そのノブは少々堅く重厚な方がいいのかもしれない。だって、こんなにも自分の素晴らしさに気づかない・信じていない選手なんて、そうはお目にかかれない。もしも、気づかれてしまおうものなら、「もう簡単には日立台では見られない選手」のノブを回してしまうように思うから。
きっと、「…無理っす」のあとに続けて吐こうとしていた中川の心情は、「このままだと、また成長しちゃうんで…」だったんじゃないかと思っている。

色々なことを感じているのだろう。私もつらつらと書いているわけだが、まずはこの2人の名手らと共にピッチに並び立っていることを誇ろうか。明らかに優れている証拠だ。(写真・文 神宮克典)
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