「逆転のレイソル」…?/Outro – 最善を尽くす –

 大逆転で浦和戦を終えた柏レイソル。

 次の相手は福岡だった。屈強なDF陣に個性的なアタッカー。今季の開幕戦では苦しめられた相手でもあった。

 スタメンには2組のデュオの入れ替わりがあった。

 垣田裕暉と渡井理己がベンチスタートとなり、「ジョーカー」として結果を積み上げてきた瀬川祐輔と日本代表北米遠征メンバーに選出された細谷真大がスタメン入り。浦和戦後半のサッカーを狙ったと解釈している。

 関係的には瀬川が中盤の1枚を担い、「シャドー・ストライカー」を務め、細谷が1トップに入る形。奇しくも瀬川はこんな話をしてくれていた。

 「岡山戦で『シャドー』をやってみて、自分の理解と監督の要求のところで、お互いの認識が少し異なっていたのでコミュニケーションを取りました。シャドーに入ったらゾーンによって選択を変えていかないといけない。だから、求められるのは『自分の良さ』よりも『チームのために』という感じ。さすがにね、細かいところまでは言えませんけど、『ゾーンごとに自分のプレーを変える』ということ。より頭を使ってプレーすることを再認識したところです」

 そして、ビルドアップがクライマックスを迎える前に「ボールサイドで攻撃に関わり、フィニッシュへも関わる」という意識も併せて話してくれた。要するに「せっせと攻撃に絡み、飛び込んで決める」仕事だ。

 やや左のエリアからピッチを斜めに捉えるようなスタンスからボールの動かし、ハイ・インパクトのシュートは素晴らしく、特にいわゆる「ポケット」での存在感は余裕すら感じた。居心地良さそうに相手CBを制圧していた。

 中盤で違いを放つ山田雄士は瀬川と細谷が生み出せる「違い」と「効能」についてをこう話す。

 「前線の2人の特長的にも自分たちは2人にも蹴れるし、真大だって足下で繋ぐことだってできる選手ですからね。自分たちも特長を理解して、どちらでも対応できる点で良い形が作れたと思う。良い形で背後を狙ってくれていましたし、瀬川くんは『オレを見ろ』と言ってくれている。『動き出しを見ろ』と。きっと、これからゴールへ向かう矢印の大きさや迫力が生まれていくはず。良いエッセンスとなると思っています」

 手数が多い崩しだって可能だが、細谷は他の選手には作り出せないシーンを作り出せる選手。日本代表後の小離脱からキレが増し、何かを掴んだ様子。R・ロドリゲス監督も「岡山戦や浦和戦で、後半の途中投入ながら良いプレーを続けてくれている。マオにはさらにコンディションを上げた上で、もっと良いプレーを期待している。もちろん、フル代表でも良いプレーをしてくれることを願っている」と期待を隠さなかった。併せて、PKの機会にペナルティ・スポットから遠ざかる細谷なんて細谷ではないと言っておこう。

 事実、相手の背後を突いた細谷が立ち上がりから獰猛なアタックを見せた。右サイドに偏る形は目立ったものの、2回あったPKダッシュに至るプロセスはシンプルに右サイドで縦を突く形から。中川敦瑛から瀬川、細谷の崩しはそれぞれのキャラクターが詰まった実に見事なものだった。

 「ここ最近の『立ち上がり』という部分、そこへ対するチームの共有として、『はっきりと蹴ること』を取り入れた結果、チームとしての『矢印』が定まり、良い入りはできた。PKにも繋がったと思う」(山田雄士)

 その山田が「自分の中にある『考え』があるとして、その少し外側から新たな『考え』をくれる人。今までの自分に無かった考えを与えてくれる人」と尊敬を口にしていた小泉佳穂にマイクを向けさせてもらった。さあ、待望の「ゼミ」が始まる。私はこの日を待っていた。

 まずは「左の小屋松知哉から生まれる展開が同点ゴール前まで少なかった気がするが」と話を向けた。

 「確かに押し込んでから両ウイングにボールを預けることはいつもより少なかったとは思います。それはあるとして、福岡のハイプレスがマンツーマン気味だったことやこの数試合先制をされているので、『入り』のところ、ゲームのコントロールを意識したというところ。その『トレード・オフ』のようなことだと思う。『入り』についてどれだけリスクを負うべきかをみんなで話して、チャレンジすることができたので、ポジティヴに捉えてはいます」

 この言葉の通り、「展開」よりも「入り」を優先したということだ。また、小泉の云う「チャレンジ」の1つにもまた「瀬川と細谷の活かし方」という項目があったようにも思う。

 「相手の特長込みですけど、『マオの特長をどう活かすのか』、『マオにどんなボールを出せば、特長が活きるのか』については自分や藤次郎といった新加入選手たちも分かってきたところで、マオの良さを活かす場面も多少は作れていた。瀬川くんは自分よりも『FW寄り』の特長がある選手。今日は相手の構造にある『穴』を見つけ出して、良い場所でボールを受けてくれていたので、でも、その意味ではマオにしても、瀬川くんにしても、それぞれの良さは出せていたようにも思います。その2人の特長のこともあってのゲームメイクやゲーム運びはありました。いつもよりもある程度タイミングが早くても、前へボールを入れていく。福岡の守備の構造としてDFが1対1になりがち。そこもあって、2人の良さを出しやすいボールを出せるかは重要で、そこは良かったと思う」

 山田と同じように、小泉も新たな狙いにポジティヴな見解を示していたが、サッカーという競技は実に難解だ。11個あるポジションそれぞれにプロフェッショナルが散らばれば、概ねは共有できてはいたとしても、人数分の見解が浮上するからだ。

 「今日は『右でボールを持つ時間が少し長いな』と感じていましたが、そこはこのチームの『強み』だと理解しながら、右でボールを失ってカウンターというシーンもあったので、『もう少し左へ運んでくれても』とは思ってはいました。ただ、あの右のローテーションで相手を押し込んで疲弊させることはできている。そこはバランスだとは思います。1人で行ける、ボールを運べるコヤくんがいるので、もっとその機会を増やしてみてもいいのかなとは思います。佳穂くんがそう話していたのなら、間違いないと思いますけどね(笑)。自分自身もボールを触りたいし、『右で作って左を槍に』という武器もある。ネガティヴなものではないですけど」

 そう話すのは杉岡大輝。浦和戦では出色のパフォーマンスで逆転勝利を引き寄せたサブキャストの1人。この日は復帰初スタメンだった。

 杉岡は奇しくも3月の浦和戦で負傷。長い療養期間と準備を経ての本格復帰。そのタイミングで聞いてみたかったのは、3月との景色の違いについてだった。

 杉岡は静かにゆっくりとこう話し出した。

 「チーム全体の距離感は明らかに良くなっているので。今日も自分が難しいことをしようとして、ボールロストをしてしまった場面もあったので。もっとシンプルにボールを動かしてもいいのかもしれませんね。シンプルに周りを使っていけば、もっと勝手に相手を剥がせるようになっている。自分が離脱をする以前はもっと個人でパスを飛ばしてみたり、(熊坂)光希が個で相手を剥がしていましたけど、今はより『組織としての強みがある』と感じています。だから、今日はより自分自身も『このチームに合わせていくことが必要だな』と感じていました。久しぶりのスタートだったこともありますけど、その上で『自分の武器』をタイミング良く出していけたらと思います」

 確かに杉岡の見せ場である効果的なサイドチェンジやローテーションは控えめに映った。CKでの貢献にも期待が集まるはずだが、そこを楽しみにする時間はまだありそうだ。今日の杉岡の「良さ」は、「自分の良さ」より「チームの良さ」を優先できる余裕。そして、守備者の1人として、しっかりと課題を把握できる豊かなキャパシティか。

 「先に失点を喫しても、今は『取り返す自信』があります。とはいえ、今日もピンチはあって、特に空中戦のところ、自分たちは平均身長からいえば低いので、確かに物理的な難しさはある。このところ、失点ゼロで抑えられていないのは自分たちにある反省点。そこをゼロにできれば、『間違いなく勝てる』と自信を持って言える。オープンプレーなら問題はありませんけど、セットプレーに関してはもっとコミニュケーションを取りながら、隙なくやっていきたい」

 この日、他会場ではいくらか派手にやり合っていた。その結果も大きく手伝って、福岡に勝利したレイソルは2連勝で2位に浮上。

 小泉には「この1勝の重み」についても聞かせてもらった。小泉は何度か頷いつからこう話した。

 「今日の1勝はめちゃくちゃ大きい。ただ、監督が話してくれたのは『どのチームから勝っても勝点3なんだ』と。それを忘れないように一個一個積み重ねていかなくてはいけない。そのメンタリティはまず岡山戦があって、浦和戦があって、今日の福岡戦があった。チームとして成熟してきている感じがしている…シーズンを通して成長をしている若い選手たちもたくさんいる。『自分のプレー』だけで精一杯だった若い選手たちが、『チームの勝利のために今何が必要なのか』や『90分の中で何が必要なのか』。それを考えられる・しゃべれる選手がすごく増えてきている。そこはすごくいいことだと思うので。『勝つことでもっと成長すること』、それができたら、もっともっと良いチームになっていけますけど、この『チームの調子』というのは常に水もの。例えば、勝てない試合が2つあったとしても、『10試合のうち、8連勝すればいい』というようなところもある。だから、目の前にある1試合1試合を大事にしつつ、一喜一憂をしないように。みんなが少しでも、『その1試合に対しての最善を尽くす』。それができるチームになりつつあると自分は思っています」

 私は迂闊にも、「首位戦線」などと書いてしまったが、小泉の話を聞きながら、残りは10試合というシチュエーションではあるが、今はまだ根気強く、最終的に順位表のてっぺんに立つための戦いや成長、成熟を見守るべき時期なのだと感じていた。

 この2つの稿を終わるには良いタイミングかもしれないが、片付けておかなくてはいけないことがある。

 それは「逆転のレイソル」についてだ。

 浦和戦も福岡戦もこれ以上ない最高の気分だった。どちらかと言うと、「先行逃げ切り型」のチームとカテゴライズされるチームだとも分かっている分、してやったりの気持ちもある。

 …だが、ちょっと待って欲しい。

 残り10試合を全て逆転で勝ち上がるつもりではないことも分かっている。おそらく、それでは情緒が保たないし、そんな簡単なリーグではないはず。「レイソルは攻撃的だ」と表現されるが、その「側」を下支えてしているのは献身的で繊細な守備という素晴らしいチームだからこそ、その中にある「逆転」についての見解は確認しておかなくてはならない。

 中心選手の1人の言葉が必要だ。

 そこで山田だ。

 彼はもうその役目を担っていい選手だ。頼りにしているよ。

 私は山田にそのままの気持ちをぶつけた。

 「この2試合を『勝ち切った』、『逆転した』という結果はよかった。しかし、『セットプレーでの失点』はある。そこを修正しなければ、優勝争いをする堅い試合の中で勝点を落とすことだってありますしね。自分たちの戦い方には自信を持っているし、『自分たちのこと』をやり続けられている。今はそれを続けていくだけ。先制されてもどっしりと構え、自分たちのやることを見失うことがない。そこはポジティヴ要素だし、『耐えれば、自分たちの時間が作れる』という感覚は強くあるんですけど、仰る通り、『失点をせずに先制、追加点』という試合をした上で、勝点3を獲るという試合もしなくてはいけないですね」

 それでいい。その気持ちを頂戴して、ルヴァン杯ウィークを迎えることにしよう。どんな時も「その1試合に対しての最善を尽くす」レイソルはもちろん、この稿にキャスティングをしなかった”彼”が「見せつける」妙技に期待しながら。

この記事を書いたライター

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