希望的観測記:「守・破・離」の道半ば-山之内佑成(東洋大学体育会サッカー部/柏レイソル)

東葛まいにち

ほんの少し前はまだ照明もまばらな薄暗いグラウンドでプレーをしていた。

背番号は「5」。

もちろん、キャプテン。

関東大学サッカーリーグ1部屈指のトーナメントウイナーとして知られる東洋大学体育会サッカー部所属、「2025年度JFA・Jリーグ特別指定選手」兼「2026年度柏レイソル加入内定選手」の山之内佑成だ。

私たち柏レイソルを愛する人間たちにとってはホロ苦い記憶と眩し過ぎる希望を放つ男であるのだが、部員たちが歌う応援歌は「ヤマ、ヤマ!ヤマ!」というマイケル・オルンガのチャントの替え歌だったところも印象的だった。

ピッチサイドで試合を撮影していた東洋大のスタッフさんはこんな話をしてくれた。

「この春にあったケガからの公式戦復帰の際にはそのチャントが10分くらい鳴り止まないほど、東洋大の顔と言っていい選手であり、頼りになるキャプテン。みんなの信頼が厚い選手なんです」

この日の東洋大学は流通経済大学(第13節:RKUフットボールフィールド)との一戦だった。

結果は1ー1。立ち上がりにCKから幸先良く先制した東洋大だったが、流経大が意地の1発でドローに持ち込んだ。

このように結果の短信を記せば、記事は進むものなのだが、昨年のインカレ優勝や今夏の総理大臣杯優勝、そして、天皇杯のセンセーショナルな躍進の印象は強く残るが、このリーグにおいて東洋大が置かれている状況は少々ナイーブなのである。この項を書いている10月中旬現在、東洋大は12チーム中の6位。降格圏内とのポイント差もスリリングな状況。山之内は神妙な面持ちでこう話した。

「夏の総理大臣杯やその前の天皇杯を戦っていた頃の自分たちと比べてみると、『勝利への執着心』といえばいいのか、ほんの少しのことなのかもしれませんが、その部分が欠けてしまっている気がしています。大会によって臨む気持ちが違っているわけではないですし、区別もしていないのですが、以前よりどこかに隙ができてしまっている気がしています」


6月のレイソルとの天皇杯、その週末の関東1部リーグ・筑波大学戦(第9節:筑波大学第一サッカー場)を取材した際には70分に投入された山之内が試合終了間際に大胆なポジショニングからの勝負強さを見せ、PKを獲得。自らPKを沈めてドローに持ち込んだ。

対戦した筑波大・戸田伊吹ヘッドコーチも「東洋大はレベルが1つ抜けているように思う。すごく難しい試合でした」と話すほど、試合を通して、「人を代え、サッカーを代え、試合を支配するサッカー」に衝撃を受けた。まるでクラブチームだった。

しかし、「少し褒め過ぎですね」と山之内は笑った。

ならばと東洋大のサッカーについて聞いた。すると山之内の口から私が日常的に耳にするワードが聞こえてきた。

「自分たちにはまず『ボールを大事にしたい』という考えがあります。それと『縦に速く、ゴールへ向かう』というコンセプトがあります。『相手に合わせて』、『相手を見ながら』じゃないですけど、自分たちは『ボールを持ちながらゴールへ速く』というイメージのサッカーをチームとして理解している。スタメンで出場することが多いメンバーたちであれば、良いクオリティが出せています」

奇しくも日立台でよく見聞きしている「ボールを大事に」や「相手を見て」というディテールに対して日常的に取り組んでいるのだ。ステージは違えど、この備えが「あるとない」では、先々の景色の捉え方が変わってくる。

また、現在の山之内と同じように、富山加入を決めている元レイソルアカデミー出身の湯之前匡央ら有力選手たちのJクラブへの練習参加や特別指定を受けてのリーグ戦招集などによる離脱が重なった影響も現在の成績に関係があるのだろう。山之内の「スタメンで出場することが多いメンバーたちであれば」という前提にはそのニュアンスが含まれていると思われる。


では、山之内自身は自らをどのように紹介してくれるのかを聞かせてもらった。そして、数多注目を集めた天皇杯などの躍進の中で見えたものも併せて聞かせてもらった。

「自分の武器としてあるのは『攻守における対人プレー』だと思っているのですが、試合を通じて…特に天皇杯はそうだったんですけど、実戦の中でいくつかの『チャレンジ』をしてきました。自分は主に左SBとしてプレーしますが、ポジショニングを考えなから、少し中へ立ってみたりとか、試合の中で取るべきポジショニング考えながらプレーをし続けることができたことが大会を通して成長できた部分になるのかもしれません、『プラスになっているかな』という感覚はいくつか自分の中でありますね」

続けて、「レイソルでの自分の適性ポジションはどこだと思うか?」にも迫った。

「レイソルのシステムだと、まず『3CBの両サイド』が面白そうですよね。それは実際に関わってみたり、見ていて思っていましたし、両サイドの『ウイングバック』についても、まだ模索しながらではありますけど、自分の良さを出せるんじゃないかって思って見ています。普段からそうやって考えながら試合を見たりもしています」

山之内の場合、自分を画面の中に投影させるだけではなく、複数回の練習参加の中から得た感覚も持ち合わせている。

「レイソルは『ピッチでの関係性』がすごくいいなと思うんです。選手同士の距離感やポジショニング、全体的な流動性もそうですね。対戦相手が困るポジショニングを全体が連動しながら取り続けることに関して、見ても、プレーをしても『すごく面白い』と思っていました」

それこそ今秋にはキャリア初の右ウイングバックでのスタンバイもしていたというし、今春の負傷期間も日立台を訪れながら、回復へのアドバイスを受けることや体力測定なども継続的に繰り返していたという。ちなみに体脂肪率はチームでも有数の数値を持つ選手の1人だという。

少し脱線したが、山之内が立てた今年のテーマを聞いた。今春にチームに復帰、天皇杯でレイソルに勝利、躍進を続け、総理大臣杯も獲得。だが一方でシビアなリーグ戦は続いている。そんな目まぐるしいシーズンを過ごす中にある。「全ての学生選手たちが得られない環境でプレーを繰り返していった中で見えてきた自分の姿などあれば教えて欲しい」と聞かせてもらった。

「レイソルで受けた刺激もたくさんありますが、今年はスタートから『チャレンジ』を意識してシーズンを過ごしているんです。『昨年までの自分よりも成長するために』、『今のままじゃ足りていない』という気持ちがあって、自分なりに考えながら。試合や状況にもよるところはありますけど、中へ入り、そこでボールを受けると、案外簡単に前を向けてしまったり、ビルドアップの助けにもなれるし、相手からのプレッシャーの受け方的にも違うやりやすさがあるんです。ただ、最後の『アタッキング・サード』に入った際のクオリティについては成長の余地があると思います。感覚や精度を磨いていきたいです。今年は今まで一番楽しいですよ。自分ができることが分かってきて、増えてきて、自分の成長を感じています」

この日も左サイドに張り出す、またはMF然と振る舞うような立ち位置から、相手DFの内側を駆け抜けて「ポケット」を陥れるなど見どころは満載だった。「ボールを大切に」して、「相手を見ながら」両サイドの数的優位の作り方やローテーションがとても強力な東洋大学の見せ場の1つである。

この項を読んでくれているレイソルサポーターたちへ分かりやすく云うと、最終ラインにいた三丸拡が前線に顔を出しチャンスメイクに絡む、あの「ミツマる」シーンがイメージに近かったと伝えておこう。

だから、「レイソルにも必ずフィットする」と確信を持っていたのだが、それは左サイドでのイメージ。前述したように右サイドでのスタンバイについてはこの時点ではまだ未知数な部分もあった。ただ、彼は「左足を振れる右利きのDF」。古賀太陽と似たスペックを持つ点はこの先のキャリアを明るく灯すことになるだろう。

私もレコーダーを回して頭を抱えたのだが、山之内への取材の中で、「ルヴァン杯準決勝に出ませんか?」と何度か急かしている始末。そのたび、「いやいや…」と、どっちともつかないリアクションをしていた山之内は立派だった。たしかにあまりよく知らない人間に口を滑らすのは良くないことだ。

しかし、その後については読者のみなさんも知るところとなり、歴史的急展開の最中にある。そのインパクトを踏まえ、この記事の作りを急がずに、今回は山之内の人柄に迫ることで「…つづく」とする。

もちろん、私が山之内への関心を強めたきっかけはやはりあの「天皇杯」だった。前半のまだ早い段階。

カメラを構える私の目の前で起きた右サイドでの中島舜との攻防がそのきっかけだ。中島とのデュエルを制した山之内は「よっしっ!」と絶叫した瞬間にはこの一戦に懸ける意気込みと気概、山之内のキャラクターの一部を垣間見た気がしたのだ。

冷静だが、1つ1つの所作やその強さが印象的なのだが、その納得のルーツか山之内の口から明かされた。

「まだ子どもの頃にサッカーと空手をやっていましたね。空手での経験がサッカーに活きているとすれば、『目の前の相手をぶっつぶ……相手を倒す』じゃないですけど、『相手に負けない』、『相手を倒す』という精神性の部分はサッカーにも活きていると思っています」

その帯の色は「黒」ー。

強いわけである。

今はまだ「守・破・離」の道、その道半ば。完成などしていない。おそらく、前任の「32」番は震えているかもしれない。

また、あの天皇杯の試合後に見せた深々としたお辞儀も記憶に残っている。山之内の状況を思えば、様々な感情が去来していたことは容易に想像がつくものだが、歳を取ると、あのような若者の仕草が妙に刺さるものだ。

「自分は『感謝の気持ち』を大切にしています。自分がこうやってレイソルでプロサッカー選手になることができるのも、東洋大学や様々な方々のサポートがあったからこそ。自分はそう思っていますし、それしかありませんから。『感謝の気持ち』を忘れないことはもちろん、『感謝の気持ち』を伝えるようにしているんです」

かくして、鈴虫が鳴く薄暗いグラウンドで自らを磨いていた青年は黄色に染め上げられた「奇跡の地」で、「国立を染め上げよう」と歌っていた。

そして、思う。

次はこうだ。

「ルヴァン杯の決勝でプレーしませんか?」

押忍。

この記事を書いたライター

今月のプレゼント