
希望的観測記Extra:「オレ、もっとできるんで」-細谷怜大(流通経済大学サッカー部)

時計の針を少しだけ巻き戻して、10月7日の龍ケ崎市陸上競技場(たつのこフィールド)。
流通経済大学が日本大学を迎えた一戦。ここで目に飛び込んできたのは流経大所属の2年生・細谷怜大だった。
どこかで聞いたことがあるような名前の彼だが、62分に左サイドMFとして登場。関東大学リーグ1部デビュー戦で訪れた、CBからの斜めのフィードを見事な胸トラップから足下に収めた際の胸トラップの音。そして、その後の圧巻のアジリティからのカットイン。また、CKの際に相手GKの前に立ち塞がる際の勇ましさでその答えが確信できた。
それはともかく、大したものだった。
何がしたいのか。どんなことができるのか。
あの「彼」もそうだったが、まだ準備も足りないトップチーム昇格初週で、それらを表現する機会がちゃんと来てしまうのは才能だ。

この「細谷」はあの「細谷」と比べて、テクニック型のアタッカーという印象。「リーチ」や「フトコロ」の深さはあの「細谷」以上。スタートポジションは「左ライン際」。
「今日の試合に起用してもらえそうな予感は…ありました。『タテ』にはあまりいけなかったのでドリブルを練習したいです。『カットイン』は好きな形ですけど、『もっといける』という感じです。オレ、もっとできるんで。自分の形を出すまで時間がかかってしまって、システム変更から自分にもボールが来るようになりましたけど、もっとやれます。トップチームのやり方に慣れていかないといけないです。特に3CBの時と4枚の時の」
試合は残念ながら敗戦。
トップチームデビューでの敗戦はあの「細谷」と一緒だが、そんな話をしている場合ではない。順位表を見れば、今後は責任がより求められることになっていく。下級生選手の起用が多い現在の流経大ではあるが、大学関係者も「もっと周りに怜大を知ってもらえれば活躍してくれるでしょう」と期待を寄せていた。
そして、この「細谷」はなんのためにここにいる?

「自分の目標は『少しでも結果を出すこと』。ゴールやアシストという『結果』を出すこと。『インカレ』にも戻らないといけないですし、チームの1部残留もがんばります。自分はまだ2年生ですけど、チームを引っ張る選手になりたいし、先輩たちを助けることができる存在になりたい。そして、自分もいつかプロサッカー選手になりたいです」
その週末には初ゴールを決めてチームの勝利に貢献と悪くない滑り出しを見せているのはなにより。あの「細谷」も今回のデビューを「よかったです」と喜んでいたと伝えた。
「…ああ、トップチーム入りはまだ言ってなかったんで。そうですか、どうも(笑)」
…やっぱり、似てるね。
希望的観測記Extra:「おまえならできる」ー戸田晶斗(流通経済大学サッカー部)

細谷怜大登場の10分ほど後、柏レイソルアカデミー出身の1年生・戸田晶斗も同リーグのデビューを飾った。
戸田と細谷は学年は違えど、共にBチーム「ドラゴンズ龍ヶ崎」で社会人チームを相手に切磋琢磨してきた盟友。戸田はワントップ下でプレーする機会が多いという。
プレーした時間帯はややスクランブルの展開。長いボールが前後左右から頭上を超えていった。戸田が見せた良さはその展開から「消えなかった」こと。多少なりともボールタッチをして、ゴール前で「なんとかしよう」としていこたこと。
「まだトップでプレーしてから数日なので、まだ分からないところもありますが、Bチームでは『ボールを受けてからチャンスメイク』という自分の良さは通用していました。1部リーグは今日はプレースピードや切り替えといった『個』の速さが違ったので、強度や判断を磨いていかないといけません。今日は自分の良さを出せずに終わってしまった。今日のような『蹴る』展開の中でも自分の良さを出せないと生き残ることはできないので」
レイソルアカデミー時代から続けてきた肉体改造も継続しており、全体的にがっちりしてきた。とりわけ、いわゆる「ケツ」はどっしりとしてきた。

「ずっとBチームでプレーをしていて、調子を落としてメンバー外の時期もあった。似たようなことはレイソルアカデミー時代にも経験をしていますし、藤田(優人)さんからも『苦しい時期に何ができるかが大事。おまえならできるから』と入学前から言われていた。『今できることを』と過ごしてきて、ようやく今があるのだと思います。筋トレはその一つです。下半身も上半身も入念にやれています」
細谷と同様、戸田も「自分を知ってもらう時期」。それ以降にすべきことは明確になっている。
「今のチームは『得点力』を課題にしていて、そこを評価されて、Bチームからトップに上がれたわけで。今日は結果が付かなかったことが悔しいです。レオと一緒にチームを助けることができたらと思っています」
入学時からあった「1年生でトップチーム入り」という目標は果たした。そのペースは流経大時代の中島舜に近いものがある。結果を出さなくてはトップリーグでのプレー機会がなくなる環境に放たれたストーリーも悪くはない。強くなる以外に答えはない。

まさに「苦しい時期に何ができるかが大事。おまえならできるから」という状況。
そういえば、そんな言葉を戸田に送った男は薄暗いメインスタンドから鋭い視線を送っていた。なんだかんだ言って、優しいんだから。
最後には「また来てくださいね」と言う戸田。「絶対決めるんで」と言う時は本当に決める選手だから、そのセリフを、またこのステージで期待している。ゴール後のポーズは…分かってるよね?
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