希望的観測記:「自分に足りないものがレイソルにはある」- 島野怜(明治大学体育会サッカー部/柏レイソル)
続いては島野怜(明治大学体育会サッカー部)だ。
島野のプレーを初めて見たのは昨年の関東大学リーグ。冬の「インカレ」でも試合当日の朝の散歩で告げられたという「FW島野」を見ている。挨拶ができたのは今夏の練習参加の際。私は記者陣の先頭を切って声をかけている。何事も「最初」が肝心だ。
その後の島野といえば、携えていたクーラーボックスをドンガラガッシャン。光の速さで修復に取り掛かっていた愛らしさとその後のスタッド・ランス戦での闘志溢れる姿のギャップから沸いた感情はこうだった。
「この魅力的なMFを連れてきたのは誰だ…」
彼の現在のステータスも「明治大所属」でありながら、「2025年度JFA・Jリーグ特別指定選手」兼「2026年度柏レイソル加入内定選手」。

島野の加入は柏レイソルのイ・チャンウォンスカウトにとって、2024年から2025年にかけての悲願の1つだったという。島野は今年の関東大学リーグのプログラム、その表紙の真ん中に映る選手(ちなみに右は東洋大・山之内佑成)。それが大学サッカー界においての島野の立ち位置。「ことの次第」は簡単には進まなかったことは容易に想像がつく。
だが、当の島野本人はといえば…。
「最初は『なんで自分なんだろ?柏レイソルが?』という感じで、ビックリしていたのが最初の気持ちでしたね。そして、自分が『レイソルへ行こう』と決めたのは、『今の自分に足りないものがレイソルにはあるから』でした。自分の中にある『世界でプレーするくらいの選手になるために自分の幅を広げる』という願望。きっと、それが叶うのがレイソルなんじゃないかって。他に関心を示してくれていたクラブに比べ、おそらく出場するのが難しいクラブだと感じましたし、ポジションのライバルが多いですから。レイソルのサッカーがプレースタイル的にも自分がやったことがないスタイルということも決断の理由としてある。一番後悔のない選択をしたつもりです」
明治大でプレーする現在に至るルーツやプロセスなどを鑑みると、柏レイソルを選択すること自体に驚きもあるのだが、1人の青年に刺さる光景が三協フロンテア柏スタジアムにはあったという。
「何試合か試合を見ることができて、日立台の雰囲気も、チームとサポーターで勝利を目指している感じとか、試合に勝ったあとの喜び方なども含めて、『試合に勝って、あの中で歌いたい』って純粋に思いましたし、さらに色々と考えた中で、『成長』ができる。自分の中の『挑戦』という意味も踏まえながら考えて、『レイソルへ行く』と決めました」
練習参加の前段階で選手として得た体験も決断に大きく影響をした。
「昨年も練習試合の機会がありました。他クラブとも何試合か練習試合があったのですが、純粋に『強いな…』と感じていました。様々な理由はあったと思いますが、いわゆる『ガチのメンバー』で試合をしてくれたのはレイソルだけ。その時期は残留争いの最中だったとしても、試合をして、『結構、自分と差があるんだな』と感じた。その感覚が得られて、自分の中にある目標に向かう上でも良い選択だったと思っています」
そんな野心を持ち、名門・明治大に君臨する島野から見て、現在のレイソルのサッカーはどのように映っているのだろうか?
「まず、大学サッカーのスケールでは真似ができないサッカーをしている。戦術についても、選手たちのクオリティも。自分たちがやる側だったとしても戦う側だったとしても。練習参加や自分も出場させてもらったスタッド・ランス戦も含めて、やっていて楽しい。見ていて楽しいサッカーをしているのがレイソルだと思います」

7月のランス戦では30分ほどの出場機会を得た。積極的にボールに関わり、終始無難に振る舞っていたと感じていたが、島野の話を聞くうち、彼の魅力に惹かれていくことに気がついた。
「あのサポーターの中で、あの声援の中でプレーをしたの初めてのこと。しかも、海外クラブを相手に。特にあの声援については『とんでもないくらいの力が出るな!』と驚きました(笑)。今まで以上の集中力とワクワクですぐに時間が過ぎていきましたが、『もっと運ぶことや前へパスを付けられないと厳しい』と感じていましたね。ボール奪取についても、判断が一瞬遅れるだけで剥がされてしまう。その感覚を知れたことは今の自分には大きかったですね」
この通り、感受性のアンテナがとても印象的なのだ。この後に続くいくつかのやりとりも含め、「中盤の人だな」と思わされた。
だが、おそらく島野が挑む中盤には中川敦瑛がいる。同期入団を果たすことになる山之内はひと足先に戦力化されている。そんな状況に関心が沸いていた。
「ノブくんは同じポジションの選手。相手を剥がすことができてボールも付けれる選手。自分も見習わなくてはいけない選手だと思っています。山之内は自分と同じ大学生ながら普通にやれている。『すごいな』と思う反面、悔しさも持っています。自分はまだそこにいないですし、今は『自分ができる場所で全力を』という気持ちです。2人は『刺激』であり、『悔しさ』でもあり、『学び』といった存在でもありますけど、自分には自分の良さもある。レイソルのサッカーの中でその良さを出していきたいし、技術的にも高めていくことに集中したい。自分の中で比較することなく自分らしくやっていきたい」
ちなみに中川は島野について、「島野怜は上手いんですよ。負けていられないと思わされる選手」とよく話している。きっかけ1つで視野を変えた選手が抱く危機感は何より雄弁だったし、もしかしたら、「もう、始まっている」のかもしれない。
7月のあの日、対戦相手として凱旋してい関根大輝から始まる「チャンウォン・ベイブス」の系譜。熊坂光希が継ぎ、中川がまた価値を高め、山之内佑成が新たなストーリーを紡ぎ出している。ハードルは上がっているし、このままいくと、おそらく、「間口」は狭まっていくだろう。
「加入のリリースが出された際には大々的に取り上げていただけた。明治大からは中村草太さんが広島であのような結果を残されていて、現在の大学サッカーのレベルを証明していますけど、自分らしく『泥臭さ』や『戦う姿勢』を見せた上で、また違う良さで、レイソルの勝利へ貢献したいし、ファン・サポーターのみなさんの勇気や力にもなれたらと思います」
私が島野にマイクを向けた試合では残念ながら欠場となってしまったが、対戦相手だった筑波大サイドが「島野は出場するのかしないのか」について、様々な想定や対策を施すほどの選手であることに変わりはない。最後は自身のプレゼンテーションを頂戴することにした。
「自分の主戦場はボランチになるはず。相手を潰していくこともできますし、ゴール前へ入っていくことも得意としています。自分は『上手い選手』ではありませんが、『戦うこと』や『汗をかくこと』、『誰よりも泥臭く』という部分が売りだと思っています。その部分を見ていただきたいですし、ボール奪取数やゴール。チームのチャンスに繋がる仕事をこなしていきたい。『相手のチャンスを潰して、チームのチャンスに繋げて、最後は自分がゴールを』というくらいの。チームに求められるサッカーの中で、そんな特長を出せる選手になりたいですね」
「明治大」、「レイソル」と来れば、やはり、瀬川祐輔。今夏のタイミングで、「島野怜はどう?」と聞かせてもらった。

「レイには『特別な感情』がありますよ。やっぱり自分にとっては『明治の後輩』だから。歳はかなり離れているけど(笑)。お互い良い距離感で、その都度で必要なアドバイスをしてあげたい。レイは真面目な子ですし、必要なことや今はまだ必要じゃないことを淘汰していくことができる選手。来年から一緒にプレーをしますけど、この先のレイにとって、プラスになることを与えたいし、一緒に成長をしていきたいと思っているんです。特長的には『上手さ』というより『闘争心』?『そっち側』の選手かなと。現代的なサッカー選手に不可欠なアスリート能力も持ち合わせているし、真面目さがどのようにサッカーに、レイの成長に反映されるのかの楽しみはありますよね。物怖じもしないしね。ボランチのことは自分は分からないけど、『オレはこういうパスが欲しいよ』と要求していくつもりです」
瀬川のそんな思いやりからは「名門・明治大に流れるもの」を感じずにいられなかったし、何より自身のゴールに関する振り返りよりもボリュームがあった。
「瀬川さんはたくさんのアドバイスをくれます。まだまだできないことも多いので、たくさんの人から学ぶことが自分には必要で。瀬川さんに感謝をしています。自分の色を出すことも大切ですが、他の選手が持つ良いところを吸収して、自分を磨いていきたいです」
島野と瀬川が同時に「飛び込んで、決める」…そんな瞬間が待ち遠しい。
最後はこの日に表現力豊かな島野が発した中で一番好きな言葉で終わろうと思う。
「…だって、自分が一番下手なんですもん。レイソルの中に入ると。それって最高じゃないですか?もう、上手くなるしかないから!」
柏で待ってるよ、レイくん!
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