煌めくトロフィーを握りしめて

煌めくステージとランウェイをゆく選手たち。その先にはたくさんの祝福と歓声、レーザービームが彼らを待っていた。

12月11日、「2025Jリーグ優秀選手賞」を受賞した古賀太陽、小泉佳穂、小屋松知哉、久保藤次郎、小島亨介選手、原田亘の6選手と、「2025Jリーグ優秀監督賞」に選出されたリカルド・ロドリゲス監督を含めた7人が「2025Jリーグアウォーズ」に出席。会場となった横浜アリーナのステージへ登壇した。

そして、進化に次ぐ進化を遂げながら、私たちにとって「特別」であり続け、それを更新し続ける古賀と「『特別』とは何か?」を私たちに示し続けた小泉は、「2025Jリーグベストイレブン」に選出されるというこの特別な夜を迎える前に、このように話をしてくれていた。

「あなたにとっての2025シーズンはどのようなシーズンだったのか?」という私の問いに、プロテインドリンクを入れたタンブラーのフタを「おちょこ」のように使いながらドリンクを注いで、喉を潤わせてから、「うーん…そうですね」と考えていた小泉はこう答えた。

…と、その前に、私はこの「間」の中毒者の1人。私の至らぬ質問に、抽象的な問いに付き合ってくれる、その「間」ー。

さらに云えば、この回答後の私の問いすら想像して、支配するかのようなこの「間」。

そして、今にも張り詰めそうな良い緊張感も併せて、私の中で「ゼミ」なのである。

話を続けよう。

「本当の、本当の最後までJ1リーグの優勝争いをすることでしか得ることができない、『経験値』であるとか…『栄養』ですね。『栄養があるな』って思うんですよ。こればかりはやってみないと分からないことではあるのですが、すごく良い経験をさせてもらっているなと…あとは、『すごく良いチームでサッカーができた』ことが大きい。楽しかったですね。毎試合ヒリヒリしながら、毎試合『勝てる』って思い、『勝てる』って自信がありながら、且つ『勝負のヒリヒリ感』のようなものも味わえている感覚があった。今までの人生の中でもなかなか無いような楽しいヒリヒリ感。そんなメンタリティで試合をできていた、『幸せ』のようなものが大きかったシーズンでした」

そう振り返ってくれた。気づけば、私の背後には記者たちが連なっていた。時には話をしながら、自ら訂正や校正も施してくれるほど言葉や表現を大切にして発信をする人だから、常に人垣が小泉を取り囲む。きっと、さらに問えば金言を与えてくれたはずだが、私たちのレイソルのストーリーはまだ続いていく。まだ、序章なんだ。小泉が運命に殴られたって痛くも痒くもない理由が分かれば、私はそれでよかった。

この日の人垣もすごかった。ただ、場所柄、機会柄、ブラウン管時代にテレビで見た「この感動を誰に…」などと言った質問が飛ぶありさま。居ても立っても居られなかった。私は「ゼミ」の機会を狙っていた。

広報担当者さんたちが時計を気にする素振りが続いていても知りたいんだ。「小泉ほどの名手が古賀をどう思っていたのか?」を。「古賀ほどの名手が小泉をどう思っていたのか?」を。そして、労って欲しかった。

「ねぎらい(笑)?」

古賀越しにそう笑ってこちらを見やる小泉。

今季最後のゼミの開講だ。

「太陽に直接言ったことはないですけど…太陽がいなかったらこのチームは成り立っていない。本当にこれは紛れもない事実だと思っていて。自分は今まで色々な選手たちとやってきましたけど、攻守両面を高いレベルでこなすことができる選手というのは本当に少ない。太陽は攻守両面でJ1トップクラス。ビルドアップに関しては間違いなくリーグナンバーワンだと思っている。太陽が後ろでアドバンテージを作ってくれるからこそ、前で時間ができて、より良いプレーができているという感覚は太陽に限らず、チーム全体としてということもありますけど、そこは本当に素晴らしいというのと…昨年と一昨年と『キャプテン』という重圧と重責を担いながら、残留争いをしていて、それでも『このチームのために』と今年もチャレンジをしていたこととか、苦しい中でも逃げずに戦ってきたことが本当に素晴らしいし、そこがあるからこそ、今年はチーム全員で、あとはサポーターのみなさんに笑って帰っていただく試合がたくさんできたと思っているので、そこが素晴らしいというのと…『いつもありがとうございます』ということですかね!」

きっと、照れ隠しであろう、「太陽は短めでね」とルールを設けた小泉に微笑む古賀。ゼミに巻き込まれてもそこは「安定と信頼の古賀太陽」だ。

「自分も同じ気持ちです。『太陽がいなきゃ…』って言ってくれましたけど、自分からしても、『佳穂くんがいないチーム』なんで考えられない。実際に少しだけ離脱した時があった。『早く佳穂くん帰って来て』って思っていたし、プレー中もまず佳穂くんを探しますし、『佳穂くんに良い状態でボールを預けたい』と思っていたので。本当に、『チームの心臓』というか…うーん、『脳』というか。チームの色んな部分を担ってくれて、感謝しかないなと思いますね。苦しい状況だったチームにも関わらず、来てくれたことにも感謝しかないですし。だからこそ、こうやって一緒に賞をいただいて終わることができて、本当にうれしく思います」

想像以上に素晴らしい時間になった。「私にあと5分ください」と思いながら、特別編の「ゼミ」は終了したのだった。

共に両利きの名手であり、初受賞。国内クラブの中でも限られた「領域」へとたどり着いた経験を持つ小泉と古賀の違いは「タイトル獲得経験」。

一見してエリートに映る古賀だが、ここまでのキャリアは描いていた地図通りに進んできたわけではない。この日の弾ける笑顔を見る限り、その道に後悔は無さそうだが、古賀はまた勝てなかった。そんなシーズンであることと、彼が得たかつてない経験が来年の古賀を作るのだろうということをここに記しておきたい。

大丈夫だよ。ずっと憧れていた理想に近いサッカーが今は手元にあり、その中心にいて、憧れや理想以上の現実をスタートさせた。そして、最初の終着地で、「ちょっと持たせてください」とは言えないほどきれいなクリスタルのトロフィーを握りしめている。なんて素晴らしい歩みなのだろう。その美しい名の通り、周りを明るく照らし、私たちを導くはずの素晴らしい未来を待っている。きっとうまくいく。それを一番分かっているのは他でもない古賀のはず。

数日前、古賀もこうも話してくていた。

「悔しさとか『こうした方が良かった』という気持ちは尽きないが、それ以上に得たものも大きいと思っている。今後の自信にして良いシーズンだったと思う。2位は悔しいです。しかも、差が1ポイントしか離れてないというところにより悔しさを感じるし、1つひとつのプレーを振り返ってみるとキリがないが、それは来シーズンへと繋げていかなきゃいけない。シーズンを通して、鹿島さんの方が上にいたわけで、鹿島さんが優勝に相応しかったということに尽きると思う。それはしっかり受け入れながらも、自信に出来るシーズンになったと思うので、来年はリーグの一番上にいるためにもこの経験をしっかりと活かしていきたい」

頂からの景色とその寸前の景色は違うのかもしれないが、悪いが、古賀は誰よりも丁寧に頂へと登るタチ。ほら、そうだろ?まるでレイソルのサッカーのようじゃないか。古賀から丁寧に、素晴らしい仲間たちとまた巧みにボールを動かして、小泉が納得しないと、またボールは後ろや横へ。そうやって、じっくりと続けていくんだ。リズムは意外とジャジーで、転調はそこかしこで起こっていて、しっかりと人数を掛けて、高めるだけ気運を高めて。リカルドはその様子を見守っている。まるで彼らの一番のファンのごとく頬に手を当てている。私たちはその劇場の観衆で、ドレスコードはイエロー。エントランスで両腕を上下に揺らして「バモス!」と言うのが合言葉。そんな特別な集団や場所なんだ。簡単に極めてしまってはいけないよ。

会見が終わり、公式撮影の機会をもらい、忘れることのできない素敵な写真を撮ることができた。あの素晴らしいレイソルの代表者として相応しい写真をここに。

心からおめでとう。素晴らしいシーズンが終わってしまって、何かを取り上げられたようで、少しせつないよ。

この記事を書いたライター

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