「関根大輝。熊坂光希と中川敦瑛、山之内佑成を見つけ・連れてきた人物」ーイ・チャンウォン(全2回/前編)

柏レイソルのスカウト兼サポートコーチである李昌源(イ・チャンウォン)に話を聞いた。

この項ではチャンウォン氏と呼ばせていただく。

まず、私はこのチャンウォン氏と会話をすることが好きだ。ご両親はすごく口触りと呼び触りの良い名前を彼へ与えたとも思う。ファッションスナップを求められることもあるというルックも良い。何より昨今の仕事ぶりには目を見張るものがある。尊敬をしている。

余談が済んだところで、チャンウォン氏について少し説明しよう。かつて韓国語通訳者としてレイソルにやってきたチャンウォン氏。その後、サポートコーチや分析スタッフなどを経た現在は大学サッカーを中心とした選手スカウトを担当。

「自分はレイソルで韓国代表選手たちの通訳を担う中で、たくさんのことを学んだだけ。もちろん、レイソルで出会うことになるたくさんの日本人選手からも、『プロとは何か?成功する選手とはどのような人なのか?』を知ることになって。その貴重な時間や経験が現在の自分を作ってくれている」

そう話すチャンウォン氏は関根大輝(スタッド・ランス)や熊坂光希、中川敦瑛に山之内佑成(東洋大学)といった若き才能たちをレイソルへ導いてきたことで知られる。また、例えば、日立台で、大学サッカー現場で、街角の一角で、ひと度、彼と会えば、ふた言目には前述した彼らや後に控える俊英たちのレポートを交換するほどの熱意と情報量を持つ人でもある。

それらをまとめた前回のホームページ掲載版の記事以降、読者からの取材リクエストも多かったため、今回は紙面で全2回でお送りする。

読者からの取材リクエストも多かったことは最初に伝えた。

「ありがたいことです」

そんな話題から今回の取材を始めた。

チャンウォン氏はスカウト網の内側外側、大学生かレイソルアカデミーかに関係なく、選手たちが持つそれぞれのスペックの見極めや将来性、人間性。またはロマンティックな想像など、聞く側を飽きさせない、ハートのあるスカウトである。

だから、最初に聞かせてもらった。

煌めく大卒経由の選手たちを取り上げる前に、すごく大切な話をしてくれた。

それは「育成年代にあるひとつの『潮流』について」ー。

私たちの中にも身に覚えがある「潮流」だ。

「Jリーグの下部組織などでも大学への進学を希望する選手が増えているということはよく耳にしています。全体的に見ても、その傾向にあるとは思いますけど、来年からは『Uー21Jリーグ』が始まりますから、この傾向は来年以降変化していく可能性があるのかなと思います。ただ、ユース年代の選手たちの考え方そのものがより現実的になってきているのだと思います」

チャンウォン氏は言葉を続けた。その語り口やスタンスは否定的でも肯定的でもない。

「夢だけを追い求めるという選手よりも、『より現実的』にという選手が増えている。『プロの世界』ですから、高卒でプロになりながらも、様々な要因で退団せざるを得ないことだってある世界。『プロか進学か』となった際に、場合によっては名のある大学を選択して卒業することができる、そこで『サッカーが疎かになるのか』といえば、今やそんなこともない。競争力はかなり高いですし、いわゆる文武両道で、人としても成長することができる。個人的にも間違いない選択肢だと思います。『プロの中で高いレベル中で成長すること』も『色々な経験をして、人としての成長とサッカーの力も伸ばしていくこと』も、もちろんありだと思う。結局は『自分が自分を成功へと導けるかどうか』なので」

ただし、これらの言葉たちはスカウトが見た、いち意見に過ぎず、細谷真大や田中隼人、少しばかり遠くで大きな一歩を踏み出した山本桜大のように高いポテンシャルや将来性が進学を許さず、プロの世界に手招きされた選手たちもいるように、それぞれのストーリーを歩むことだって素晴らしいし、各々のポテンシャルがすぐ先の未来を切り開くことだってある世界。悪戯に『トップへ』だとか『プロへ』だと騒ぎ立てることについては、私も態度を改めて久しい。そのあたりについてはチャンウォン氏が代弁してくれた。

「ユース年代で力のある選手が、プロ入りを選び、すぐトップチームで活躍することができるかといえば、それは簡単なことではなくて、なかなか難しいところ。『学生とプロ』は全くの別物ですから。まずサッカーで生活を立てていく時点で大変なこと。例えば、プロになって期限付き移籍となれば、その土地や環境、チームに慣れることだって大変なことですからね」

そのような潮流はまずある。日本代表を大学サッカーが支えているという風潮に対しては甚だ疑問ではあるものの、プロを選ばずに大学サッカーを選んだ有望株が各地、各大学に集まり、しのぎを削る様子は私なりにも楽しんできたし、定期的に足を運びたくなるハイレベルなコンペティションとなっている。

少し硬めのスタートとなったが、チャンウォン氏にこんな質問を投げ掛けてみた。「連れて来た選手たちが結果を出していく。まるで『当たり』を引いたかのような状況に対するプレッシャーは?」

ご覧のように表現は少し悪い。だが、なるべく会話として聞きたかった意図を汲んでいただきたい。

曰く、こうだ。

「プレッシャー…正直言って、自分はそうは受け取ってはいないんです。仰るように『当たりを引き続けている』という表現も結果的には正しいかもですが、能力は素晴らしくても、まだ『当たりなのかそうでないかも分からない選手たち』を、日立台で『当たり』にしてくれているレイソル独特の育成環境があってこそだと思うんです。現場のコーチングスタッフの方々が彼らのことをしっかりと指導をしてくれますからね、そこでの成長についてはプラスでイメージもしながら、すごく信頼をして現場に預けているつもりでいます。そこはすごく重要なことだと思います」

では、どのような視線を選手たちへ送り、選手たちとのコミュニケーションを始めていくのだろうか?旧知の大学生選手が腰を抜かすほど限られた観戦環境の試合に足を運ぶこともある。リーグカテゴリーはそこまで重要視していないようにも見える。

「チャンウォンさんに声を掛けられたことはビックリしました。あの前半で交代した試合を見ていたなんて…。まずいですね、また観に来てもらえる選手にならないと」

そんな選手だっている。

チャンウォン氏はスパイでもミッションインポッシブルを地で行くつもりでもないが、スカウトや関係者が居並ぶ席から見守ることより、観客席の一角から広い視野で試合を見守ることが多い気がする。スカウトとしての「アングル」について聞かせてもらった。

「能力そのものを見る場合もポテンシャルを見る場合も、明らかにピッチ上で素晴らしくて目を引く選手がいて、『この選手はレイソルに合うのかな?』と考えてみる…そんな視線で見ることももちろんあります。ただ、今年に入団してきた選手たちというのは…まず、加入へ至る時と加入時で監督もサッカーも変わっているんです。そういった変化も多々あり得る世界ではありますから…。極端なことを言わせてもらえば、『どのようなサッカーにも適応できる選手』かどうかもイメージしていかなくてはいけないと思うんです。現在のレイソルのサッカーから鑑みると、選手をピックアップする上ではイメージをしやすいところはあると思います。魅力的で特長的なサッカーをしていますから、その意味で昨年までだったら声を掛けさせてもらっていない選手に声を掛けることだって今後はあると思います」

現在どんな俊英に視線を送っているのかを聞くような野暮な関係ではないので、チャンウォン氏が誰を見ているのかはよく知らない。こちらが目を引いた選手をお知らせしたところでだいたいもう知っている。見る目があるフリをしたところで、かないっこないのだ。

だが、ある時に一度だけ、私が「明治の島野怜だな?」と言った時のチャンウォン氏が見せた動揺は良い思い出になっている。

丁寧に慎重に関係を構築して、見事に加入へと漕ぎつけた山之内のレイソル初アシストをチャンウォン氏はその目で見れていなかった。何故なら、彼の居場所は大逆転に沸く日立台ではなく、どこかのスタジアム。そこでまた誰かを見ていたから。

「これは東洋大の井上卓也監督がおっしゃっていたのですが、実は佑成は…」

次号へつづく。

この記事を書いたライター

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