「渦」を生み出す人-原田亘

レイソルコラム

 そういえば、最近じゃ1番の汗を滲ませていた。

 「そうでしたっけ?」

 原田亘は微笑を浮かべてこちらを見やる。

 そうなのだ。しばし、実戦から離れていた原田とのコミュニケーションは取材日に交わせるかどうかの挨拶。その際、着用していた練習着が乱れていたのは何度かあった大雨の日くらい。今にして思えば、岡山戦を前にした取材日に挨拶をした原田は「いい汗」をかいていた。

 だから、岡山を日立台へ迎えた16節、原田の名がスタメンリストの上から2番目に名を連ねていた際には「なるほど」と唸った。

 右CBとして、粘り強く相手に絡みつくデュエルは基本装備。だが、最も原田に惹かれるのは右サイドでの「主張」や「打開する力」といった攻撃面の斬新さだ。

 丁寧なタッチでパスを収め、右前方に現れる久保藤次郎や小泉佳穂へパスを叩く。常にスペースを探し長めの浮き球を落とす姿や自ら駆け出す姿は相変わらず。オフサイドとはなったが、パスを引き出して岡山DFを翻弄したシーンは象徴的な事象。見るからに「見事な87分間の復帰戦」だった。

 「ホッとしている」

 そう話した原田だが、話は聞いてみるものである。2m横ではゴールで沸かせた「ヒーロー」が多くの記者たちを集めていた。しかし、自身の復帰戦について語るその表情は硬く、声も控えめ。何度か小さく首を振りながら、だった。

 「今日は『全然ダメ』でした。『チームに貢献ができた感』が全くないです。普段通り?…いやいや、全然まだ。自分の感覚的に、流れるようなプレーというのは無くて。感覚的には以前より…程遠いものがありました」

 相手の陣内で、全体のハードワークと「意図」を携えたテンポの良いパスから「相手を押し下げ、歪めながら丸ごと包囲する」、まるでピッチでの「ロンド(鳥かご)」を見るかのようなレイソルのサッカー。「堅守」で鳴らす岡山と対峙しても、レイソルはレイソルらしく岡山の良さを消し続けた。原田も随所にらしさを見せていただけに驚きだった。


 続く、横浜FM戦でもそう。

 久保と小泉と関わる様子はまるで右サイドに「渦」を作るかのよう。大きなロンドの中でのミニマムな3人のロンドが始まると、何回かのパス交換から独自の「レーン」を作り出す。逆サイドのジエゴへの見事な「キー・パス」も放った。

 なのに、また…。

 「今日も『全然ダメ』で。もっと簡単にトウジにボールを付けることができたなら、複雑なパスを交わさずにサイドから越えていけたはずなので、頭も体もちょっと…まだまだ戻っていないなと」

 「今日も?それは何故?謙遜?」、さらに問うた…。

 「自分は『プレーの細かいところをこだわること』こそが特長だと思っているので、そこでチームを助けることがもっと必要。『自分から守備を打開すること』がまだできていない。相手をこじ開けるじゃないですけど、見返してみたら、前を向けばパスを付けれた場所もありますし、まだそこを逃しているので」

 では、「自分は今、どのような貢献をできているのか?」だ…。

 「自分は『チームに貢献できている』とは言えない。あれだけ攻撃に関わらせてもらっている以上はゴールやアシストという『数字』は出さないと。自分はそこでも貢献していきたい」

 そんな原田と右サイドで縦関係を組む久保は原田をこう表現してくれていたので察しはついていた。

 「ワタルくんはすごく『攻撃に楽しさを求めている選手』。もっと攻撃をしたいし、積極的にボールを触っていたいし。その意味で自分と似通っている選手で、守備でも自分を押し出してくれる存在で、その意味で『攻撃的なDF』。いつも助けてもらっています」

 最後は「チームには競争も起きているが?」。そんな話を原田へ向けた。

 「自分も若い時は『負けてたまるか』とやっていたし、大切な気持ちだとは思いますけど、今は『自分のプレーをやり続ける』。他人がどうこうというよりは自分。だから、自分の状態をしっかりと上げていきたいですね」


 頑ななのは相変わらずだったが、もう、どこか心地良かった。たぶん、それは「ダメだ」と言わなかったからかな。

 ともあれ、私はもう原田への信頼と関心の「渦」の中にいる。それは間違いない。

(写真・文=神宮克典)