
3つ丸を付けた男 ー 三丸 拡

全体練習終了後、ハーフパンツをたくし上げてスプリントを繰り返す。徐々に距離や動き、強弱を加えて。
「試合に対する試合勘というものは試合を経て得ていくものですが、試合から離れると筋力も持久力も調整が必要。時には試合以上の負荷をかけるなどの準備をしている」
そう話していたのは左のスペシャリスト・三丸拡。ルヴァン杯とJ1リーグでの「ヴェルディ・シリーズ」3連戦を控えた取材日のことだった。汗を滴らせ、まるで生ハムの原木の如き左足をさすりながらクラブハウスへ消えていった。
その背中を見て、「絶対にスタメンじゃん」。そう思った。
今季の三丸は新境地にある。そこに興味があった。
三丸は左CBを務めている。ただ、それは「左CB」から始まるだけであって、相手を見て、状況に応じて、左SBやWB、サイドMFに左ウィングへと変貌する。守備への戻り足だってチーム屈指のスピード。文字面だけなら簡単なこのポジションでは「よりCB的」な田中隼人も伸び盛り、「より攻撃的」な杉岡大輝もいずれ負傷離脱から帰って来る。三丸はどう捉えているのだろうか。
「自分はあまり『システム』を意識していません。SBだCBだという意識はなく、『抑えるべきところを押さえている』つもり。ポジションに囚われずにやれている。自分は『ピースの1つ』にすぎないし、特に気張らずにやれています」
CBに見えて、SB然としたボールタッチや守備対応。三丸の右に構える古賀太陽、前方に構える小屋松知哉らとのスライドは極めてスムーズ。迫り来る相手選手の守備を無効化していた。その効果はこの3連戦では際立った。
「ヴェルディは若くて勢いのある選手たちがアグレッシブに守備や攻撃を仕掛けてくる本当に良いチーム。自分たちはそこを『いなして、引き込んで』という準備をして、しっかりと表現できた」
まさにいなしにいなした。中央を固め、相手を掴みにくるヴェルディの守備を攻略するヒントは「サイド攻略」。三丸はその「厚み」を担っていたように思う。結果、ルヴァン杯初戦では守勢の展開から中川敦瑛のゴールを、「シリーズ」第3戦目のJ1リーグ20節では小泉佳穂のゴールを導き出した。
「右も左も『良い循環』が作れている。ボールを回していても良い位置に立ってくれているし、『阿吽の呼吸』ができつつある。そうは言っても、試合ですから、ゴールに繋がらない可能性だってあった中で先制をして、追加点を重ねられた。そこに貢献できたことはよかった」
それぞれ、角度も球種の違う形だった。初戦は相手陣内深くへ現れてからのSB的なクロスによるアシスト。3戦目ではリズムを変えるドリブルからの見事なスルーパス。初戦に残した「SB三丸」の幻影がスペースを生んだ可能性は高い。それほどこの一連の三丸のプレーは「快適そう」に映っていた。
「自分たちらしい『立ち位置』や『数の優位性』を作る中で、『相手の裏を取っていく』ことも必要。そんな場面でも自分のフィジカルやスプリント、クロスなどがうまく活用できているから、自分がパスやクロスを選択する場面で『見える景色』が全然違う。そこがゴールへのアシストへ繋がっているのかもしれません。常に優位性を持ちながら、立ち位置を選べたら、スプリントやランニングをできたら、またゴールに関わる機会が増える気がしています」

レイソルはヴェルディ・シリーズに3つの白丸を付けて、J1リーグの第20節を終えた段階で2位に再浮上。ルヴァン杯ではベスト8進出を決めた。「2025シーズンを駆け抜けた証」を残すには十分なシチュエーションにある。
こちらが無理にせっついて聞かなくとも彼らは「野心」に正直だ。
「レイソルに来て6年が経って、『そのチャンス』は2回あって、まだタイトルを獲れていない。悔しいシーズンも経験してきた中、今年はリーグ戦とカップ戦でそのチャンスに近づきつつあると感じているので、『タイトル』を自分たちの力で、本当に『チーム全員の力』で獲りたい。誰が出場しても同じサッカーを、魅力的なサッカーを表現できるように、まずは選手それぞれが自分の持っているものを出し切ることを前提に、チームだけではなく、サポーターのみなさんと『一致団結』をして勝ち獲れるように、またやっていきたい」
取材の話題がポジション争いに及ぶと、「スギちゃんも隼人も素晴らしい選手。それぞれが与えられた役割をこなして、チームに貢献できればそれでいい」と頷いた。自分への自信もある、仲間たちへの信頼だって強い、自分が何をすべきかを知っている。ここでもまた3つ丸が付いた。こういう選手がいるクラブは強い。
(写真・文=神宮克典)
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