「打て!打て!打て!」ー 瀬川祐輔 Vol.1

 日立台へ詰め掛けた記者たちがジムから出てきた瀬川祐輔を囲んでいた。

 瀬川はテンポ良く投げ掛けられた問いに和かにゆっくり応対していたが、少しばかり的外れな問いには「ちょっとその話はよく分からないです」と嫌味なくスパッと切り返してみせる。

 ちょっと懐かしい気持ちになった。

 「…『瀬川』が帰ってきた」ー。

 そんな気持ちだった。

 概ね、このような話をしているタイミングで私は「瀬川囲み」へ加わった。

 「フロンターレで活躍して引退するか、レイソルに戻って引退するかの二軸があった」

 「直感的に『レイソルへ行った方がいいかな』と思った」

 それらよりもまず、瀬川に聞きたかったのは、「瀬川のキャリアの中で、前回のレイソル在籍時はどんなキャリアだったのか?そして、今回のキャリアをどのようなキャリアに?」ということだった。


 「まず、『アットホームな環境』がレイソルにはあるんですよ」

 瀬川はそう話を始めてくれた。

 「前にレイソルに在籍していた時(2018年〜)、自分はレイソル1年目にキャリアハイのゴール数(シーズン11ゴール)を決めているんです。あの1年目の自分を萎縮させないでやらせてくれた。そこが大きかった。そのアットホームぶりというのは選手たちやチームスタッフだけで作り出しているものはなくて、柏レイソル全体にあるものだと思っていて、その環境が自分をリラックスさせてくれたし、試合へ臨みやすくさせてくれた」

 この話を聞いた際、「あの頃」はキャリア的にも立場的にも、こちらから見ていた、または思っていた以上に必死だったのかもしれない。

 大宮から加入した当時は…いや、当時も、瀬川は様々なポジションでプレーした。たしか、左MFから始まって、1トップだって務めて、みるみるうちに自身の存在感と価値を高めていき、次第に彼へとチャンスボールだけでなく、周囲の期待が集まるような存在にまでなってみせた。今も変わらぬ彼の応援歌の中にもあるように、チャンスとあれば、果敢に「打つ」瀬川、「飛び込んで決める」瀬川の姿は今も焼きついているし、レイソルに関わる多くの人たちが彼の「ひと仕事」に懸けていた。

 また、アジアでの戦いも睨んだ分厚い選手層の中から這い上がる、その手前にあったストーリーも口を突いた。こちらを見やる、その表情は穏やか。

 「やっぱり、あの頃の自分にはタニくん(大谷秀和コーチ)の存在が大きかった。自分は札幌戦でレイソル初ゴールを決めることになるんですけど、タニくんが『おまえがヒーローになるんだぞ』と背中を押してくれたことを今でも憶えているんです。そういったベテラン選手たちの振る舞いなどもあって、重要なゴールを決めることができて、当時の自分にとっては今後の自信になるシーズンを過ごせた。翌年は苦しいシーズンを過ごす中でネルシーニョさんが自分を重用してくれたおかげで、『試合に出場すること』や『信頼されることの大事さ』を学んだ。自分にとっては色んなものが詰まった4年間でしたね」

 つまり、どんな4年間だったのかー。

 「ケガも多くて、2年くらいはまともな稼働ができていませんでしたけどね。ケガが多いまま、湘南へ行くことになりましたけど、本当に色んな経験をしましたね、あの4年間は。ただ、最後の2年間、あんまりチームの力になれなかった。そこへ対しては悔しい思いがありますし、自分のキャリアの中では今のところ、『2番目に重要なシーズン』になっている。湘南と川崎で過ごした3年半は『1番成長することができた』という意味で最も重要なキャリアだと思っています。でも、選手としての『土台』を造ってくれたのがレイソル。そんなイメージがあるんです」

 このあたりのニュアンスは実に瀬川らしい論法だと懐かしくなった。「包み隠す」よりも「隠さずに伝える」瀬川らしさ。こちらも誤解を恐れることなく包み隠さずに記せば、まだ「重要なキャリア」、あるいは「それ以上のキャリア」、その構築の余白は残されていそうにも聞こえたのもまた事実だった。

 以降も話を続けた瀬川の言葉からもその可能性を汲みとることができた。

 瀬川はこちらへこう言った。

 「…では、『2度目のレイソル』、今回はどんなキャリアに?」。

 私はそう話を向けた、その返しだ。

 「やっぱり、今年は『リーグ優勝』。これはマストになる。そして、来年は『アジア』へ行って、アジアでタイトルを獲る…それに尽きますね。ルヴァン杯だって獲ることができる位置にいるし、獲れるタイトルを全部獲る」

 野心的な姿勢も瀬川らしさの一部と云える。包み隠すなんて彼らしくない。また、今春に経験してきたアジアの頂点を極める戦いを経て、それらの野心が決して夢物語ではないことを日立台へ持ち帰ってきた。同時に個人的「グランドスラム」、「タイトルコレクター」への強い関心を隠さなかった。

 「…『天皇杯』と『J2』は獲っているんで。『リーグ』と『ルヴァン』、『ACL』を獲れたら、全部獲れたことになる。選手にとって、そんな幸せなことないじゃないですか。なかなかそんな選手はいないし、絶対に成し遂げたいですね。それに『ベストイレブン』などの個人表彰というのは強いチームにいないと縁がないものだと思うから、興味がありますし、そのくらいの意志で自分はレイソルに恩返しをしたいんです。まず自分が『そのレベル』にいる選手なのかは自分では分からない。それを決めるのは『周り』ですけど。だから、『自分は優勝に貢献したんだ』というシーズンにしたいですね。いつか、『引退は自分で決めていいよ』ってクラブから言われるくらいの活躍や貢献をしたい。そんな選手になっていきたいなって」

 瀬川に求められる貢献はやはり「ゴール」か。「打つ」なり「飛び込んで」なり、そう遠くない時期に我々を沸かすことになるものだとは思うが、瀬川はこの「ゴール」に対する捉え方の変化にも言及。それは興味深いものだった。

 「あの『13点の時』も決めてますから、日本人で唯一のゴールを(笑)。川崎の時もSBで出た試合で決めたり、直近のゴールだったら、浦和戦(5月)とか。でも、昔よりもゴールに貪欲ではなくなったかもしれませんけど、『ここで決めないとマズい』って時に決めてきた気はします。チームにとって『可能性の高い方』を選ぶようになりましたね。ただ、『エゴ』だって時には必要ですし、そこはマインドで」


 レイソル再デビュー戦は第20節・東京V戦。61分に細谷真大と共に投入された。相手陣内での守備や自陣への戻り足の良さは相変わらず。ボールを奪ってからのクオリティは言わずもがな。「決定機が訪れてしまう」、そんな復帰後だった。

 タテの関係で決定機を演出した細谷は「瀬川くんとはすごく『やりやすさ』を感じていますし、昔に組んだこともあるコンビ。うれしさもありながら、またもっと良くなっていくと思う」と感触を語っていた。この2人が残り30分で出てくる、しかもお互いに決定機を迎えるという選手交代の「強度」は印象的だった。

 「一緒にやってみた感じだと、あまり色々と言ってこない感じがこのチームにはある気がする。ミスが起きても、『チームのみんなでカバーを』という感じですね。もちろん、時にはある身振り手振りで強く何かを伝えなきゃいけない場面もあるけど、基本的にはそれぞれの判断をリスペクトしながらプレーしているように思う。だから、より『自分』を出しやすいかな」

 瀬川が出そうと考えている「自分」、その姿はかつての「ファイター」的な姿というよりも、自ら「可能性が高い方を」と語るように、常に準備ができていて、「周り」が見えていて、複数のプレーの選択肢を持っている、「懐」が広い姿をうかがわせた。

 復帰後の数試合を見る限りでは、「最も重要なキャリア」を過ごしてきた片鱗は随所に見られるし、また様々なポジションを務めてくれることもあるだろうし、現行のレイソルのスタイルの中でどのような姿を見せていくのかは純粋に楽しみだ。

 瀬川の再加入を知らせたムービーの中にもあったように、瀬川の応援歌を早くシンガロングしたいと願っていたサポーターが多かったと伝えると、食い気味にこう話した。

 「自分も早く『あのチャント』を聴きたいし…本当はね、最初に試合に出られるのであれば、日立台が最初になるといいなって思っていたんですよね。最初が他のスタジアムではなくて、日立台がよかったなって。日立台…楽しみ」


 そして、過去に瀬川がSNSに投稿していた「背番号『10』継承宣言」、「新背番号『20』」についても話を向けた。

 「ありましたねー」

 ニヤリとする瀬川。

 「…あれは冗談(笑)!自分が『10』なんてつけられませんよ…でも、もしも、『10』をつけるなら、しっかりと活躍をして、クラブから『10番をつけて』って言われたい。それだけ価値のある番号だと思うので」

 丁寧に否定…という訳ではなくが、やんわりとそう話した。そして、「20」に隠されたストーリーを教えてくれた。

 「背番号『20』の理由ですか?…まず、『空いてる番号が少なかった』(笑)。カキは昨年から『18』だったし。理由は…川崎で自分が『良く世話していたヤツ』の番号。『山田新の番号』です。ずっと仲が良くて、プライベートもずっと。自分を慕ってくれていたしね。今回もアイツは号泣してくれたりもして。『そんな後輩がいるのもいいもんだな』って。それで新と同じ背番号にしました。『20』同士で勝負できたらいいじゃないですか。今年は少し苦しんでいるので、自分が『火付け役』にでもなれたらなと。もう、違うチームだけど(笑)」

 ぜひとも、その素敵な刺激を放ち合って欲しいものだが、そこは「※レイソル戦以外で…」という注釈をつけておこう。

 ともあれ、面白い選手が帰ってきてくれたと思う。まさに「その発想は無かった」というやつだ。この人が持っている「力」、彼が言うところの「自分」の部分が輝き出すと、手がつけられない選手だから。色々な成長はあるとは思う。そこに大きな関心があるし、今回その話は有意義だった。


 だが、こんなことを思う。

 「打て!瀬川!」ー。

 その気持ちとの折り合いについては今後つけるとして、まずは「ちょっとその話はよく分からないです」と言われないようにマイクを向けていきたいと思う。

 次項はこのような話から生まれたところから記していこうと思う。

 「…あ、それ、リカルドに聞いてみてくださいよ(笑)」

<続く>

(写真・文=神宮克典)

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