読書案内⑮「絢爛の法」 

ふれあい毎日 良書吉日

「絢爛の法」 川越宗一著 新潮社

近代国家「日本」をつくる。

大日本帝国憲法を起草した井上毅の業績を辿る歴史小説である。物語は、井上に仕え、師事した牧野伸顕の回想から始まる。昭和24年、日本国憲法の施行を待つばかりの時である。牧野は、維新の立役者大久保利通の子で、この国をサンフランシスコ講和条約締結に導いた戦後の立役者吉田茂の義父である。

牧野が手にした明治28年3月19日の新聞には、井上毅の死亡が報じられている。享年53歳、死因は肺病。政治家や政府高官には容赦ない批判を浴びせる新聞が、井上には称賛を惜しまなかった。無私で猛烈な仕事ぶりと清廉な暮らし。どこか陰気で愛想が無く、議論を好み、独り言が多く、宴会ではいつも一人ぼっちだった。その井上が、封建時代の気風が色濃く残る世で、それまで無かった多くの法律や規則、そして憲法を作った。

話は井上が欧州留学を終え、日本に帰国した明治6年に遡る。明治維新によって誕生した「日本」は、その後西郷隆盛の敗死と大久保利通の暗殺を経て、ようやく国家としての形を整える時期に差し掛かっていった。世界では、西洋列強がアジアを食い荒らしている。その荒波に抗して、この国を一人前の近代国家にするには何を成すべきか。伊藤博文はじめ維新をリードした先人達の大きな不安と固い意志がそこにあった。

外に抗する力の構築と、内を治める仕組みの整備が急がれた。富国強兵と立憲政体の確立だ。前者の物語が『坂の上の雲』に尽きるなら、後者の物語は本作に尽きる。肺を病み、命を削りながら憲法制定に心血を注ぐ井上を軸に、個性豊かな英傑たちが国づくりにもがく姿は、劇画漫画の興奮を超える。「憲法が保証する権利によって国民は経済も内心も自立する」という井上の信念と、「何人も害することなかれ」という法の根幹への井上の熱い期待が眩しい。
■風来坊
ウオーキング、ハイキングとラグビー観戦が趣味の呑み助。近年始めたサックスに、ただ今苦戦中。

この記事を書いたライター

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