良書吉日⑤読書案内『自分が拉致されたのはなぜか、自分たちだけが帰国出来たのはなぜなのか・・』
『日本人拉致』蓮池 薫著 (岩波新書)
北朝鮮拉致被害者の蓮池薫さんは、1978年7月31日、新潟県柏崎市の海岸で、現在の奥様である奥土祐木子さんと一緒にいるところを突然拉致された。そして、2002年10月15日、24年ぶりに日本に帰国した。あれから23年間、自分が拉致されたのはなぜか、自分たちだけが帰国出来たのはなぜなのか・・。その問いが頭から離れなかったという。
しかし、ようやく拉致の全体像が見えてきて、この機会に真実を活字にしようとしたと述べている。そうした苦悩の結実ともいえる本書は、冷静で論理的な筆運びで、拉致の当事者だけに、大変強い説得力を持つ。
拉致の目的は、北朝鮮の秘密機関によって目的や対象、方法も違った。ハイジャック事件の「よど号」グループは革命を行なうため、日本人を海外で獲得することを目指した。また、他のグループは情報収集を行う工作員の日本人のなり代わりを作ろうとした。
70年代、対南工作に外国人を利用せよという金日成の指示に従って拉致が推進された。当時、新潟市在住の横田めぐみさんが13歳という幼い年齢で拉致されたのは、若い女性を長期にわたって「教育」のすえに北朝鮮のために活動する工作員にするためであった。
米子市の松本京子さんも同様だ。北朝鮮の秘密工作機関は、手当たり次第に拉致し、その中から使えるスパイを作くろうとした。それはまず拉致ありきという計画の杜撰さと、暴力的な実行であった。
1998年ごろから北朝鮮の様子が変わり、このころ北朝鮮は経済的に非常に困窮していた。さらに、こうした人道無視の行為に対して世界的な抗議を受けることになる。そして、著者の蓮池さんは北朝鮮における長きにわたるマインドコントロールをようやく抜け出すことが出来たという。
拉致問題は国家をないがしろにする人権問題だ。この犯罪を、あきらめずに多くの人に正確に知らせることが「拉致問題は解決済み」とする、北朝鮮の主張をはね返す力になるはずだと語っている。
■吉法師
漁師町の生まれ。青春は陸上競技に明け暮れ、その後、トライアスロンにも挑戦。中学生時代、国語教師への憧れから、読書に目覚め、今や本の虫。
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