紙面を黒が圧する漆黒の作品《書の力 第53回》 

アート

名久井裕三(なくいゆうぞう)「風刻」(1924-2013)平成25(2013)年 第65回 毎日書道展 紙本墨書 1面 80.0×170.5 成田山書道美術館蔵

紙面を黒が圧する漆黒の作品。作品と対面すると、多数のしわによる立体性に表現の重きがあること、わずかに残された余白が際立つこと、落款(らっかん)印は控えめに添えられていることなどに気づきます。

“風”にまつわる作品は名久井の書業の一貫したテーマでした。彼の作品はシリーズの変遷を追うことで意図されたものを感じとることが出来ます。主に毎日書道展と書道芸術院展において、「風刻」シリーズは続きました。

余白は年を重ねるごとに小さくなっていきます。しかしながら漆黒の中に光が宿り、明るく見えるようでもあります。最期となったこの作品は、完全に黒に侵されていません。この黒い紙面はひたすらに線をひいて造られたことを知ると、生涯を青森に過ごした名久井自身の年輪のようにも見えてきます。名久井はこの作品を見届けるように「風刻」シリーズと人生の終焉を迎えました。

6月21日から8月11日に開催される「収蔵優品展 戦後日本「新しい書」のかたち」展でこちらの作品を公開します。(学芸員 谷本真里)

※この作品の詳細は公式図録(税込1200円)にご紹介。申込はお電話で。☏0476-24-0774。