初夏の水辺をさわやかに彩るハナショウブ。古くから日本人の心を魅了し、各地にそれを楽しむための菖蒲園が作られています。東葛地区でもちょっとした菖蒲園が作られている公園はあります。
ハナショウブ(花菖蒲)はアヤメ科アヤメ属の多年草で、山の湿原に自生するノハナショウブをもとに作られた園芸植物です。ハナショウブを紹介するときよく話題になるのが、同じ仲間でよく似たアヤメ、カキツバタとのちがいです。そこで最初にアヤメ、カキツバタ、そしてハナショウブの原種であるノハナショウブのちがいを紹介します。
まず生える環境が異なります。カキツバタとノハナショウブはいずれも水辺に生えるのに対し、アヤメは日当たりのよい乾いた場所を好みます。花期は東葛地区の場合、カキツバタとノハナショウブが6月頃なのに対し、アヤメはひと足早く5月頃に咲きます。
そして一番分かりやすいのが花の模様です。この仲間の花はふつう、上に向かってのびる3枚の内花被片(花びらに相当)と、下に垂れるように広がる3枚の外花被片(がくに相当)があります。そのうち外花被片のつけ根の部分の模様がちがうのです。
アヤメはつけ根の部分が全体的に黄色っぽく、そして茶色い網目模様が入ります。アヤメの白花品種であるシロアヤメには茶色い網目模様はありませんが、つけ根全体が黄色くなります。
対するカキツバタとノハナショウブは、つけ根の中央に細長い三角模様が1つあります。この三角模様の色がカキツバタは白色、ノハナショウブは黄色です。

ノハナショウブを改良してつくられたハナショウブにもその性質は引き継がれています。
ハナショウブは紫以外にも、青、赤、ピンク、白など花色が多彩で、複雑な模様が入っている品種も少なくありませんが、いずれも外花被片のつけ根の真ん中に黄色く細長い模様があります。

ハナショウブには日本で育成された系統(江戸系、伊勢系、肥後系)、海外で作られた系統、そしてキショウブなど他の種類と掛け合わせて作られた種間雑種系統などがあり、色・形ともにバリエーションが豊富です。黄色っぽい花を咲かせるものは種間雑種系統です。ぜひハナショウブの多様性を感じてみてくださいね。
わぴちゃん(岩槻秀明)プロフィール

気象予報士。自然科学系のライターとして植物や気象など自然にまつわる書籍の制作に携わり、著書は20冊以上におよぶ。千葉県立関宿城博物館調査協力員、野田市史編さん委員会専門委員なども務める。宮城県生まれ野田市育ち。