
すべきことは「すべきこと」をすべからく

例えば、「この1試合のために」。
または「勝利のために」。
そして、その中にバランス良く求められる「自分のために」や「タイトルのために」という野心。
この9月に開催されたルヴァン杯ベスト8・横浜FM戦リーグ戦ではなくカップ戦。このベスト8からはホーム&アウェイ2試合の合計スコアで勝ち上がりが決まるレギュレーション。
ルヴァン杯はリーグ戦に挟まれた中でのスケジュール。開幕間もない春先は様々なメンバーや特別なニュアンスを持った時期もあるにはあったが、現在のレイソルが放つ士気はリーグ戦と同様に高く、「タイトル」のシルエットも薄っすらと捉えることができるところにいる。
その取材の中で耳にする機会が多いワードが、「すべきことをする」というワードだ。
横浜FM戦との2試合はトータルで「5ー1」。レイソルが勝ち上がりを決めた。ただ、この試合、このスコアほど簡単な試合ではなかった。横浜FMが放った強度に苦しんだ第1戦の立ち上がりから、この「5ー1」という結果を想像するのは少し困難だった。第1戦で負った3点差を覆すべく、「出てきた」横浜FMを「受ける」シチュエーションが少し目立った第2戦もまた然り。「1試合」で見ればスレスレの勝利だった。

その意味で、それぞれが表現する「すべきこと」がどのようなものなのかを考えさせられた2試合だった。数多のパスを繋ぐ彼らはボールだけてなく、「すべきこと」を交わし合うから。だから、聞かせてもらった。また、この場合は選手たちの思考や感覚とこちらの考えのギャップを楽しむ方がことが捗るのは皮肉な話だ。

第1戦の試合後に「相手がどう来るのかを見極め、『180分でどう勝つのか』を考えられたら」と話したのは三丸拡。
押し込まれながらも、左CBとしてのタスクをこなし、見事な「幅の数的有利」を作り出してジエゴのゴールを演出。「守」から入り、前へ進むにつれて「攻」の質と出力を上げる「ミツマロール」が炸裂した。この第1戦で「すべきこと」を分かりやすく実践した選手の1人だ。

「監督からの指示もあり、形を変えながら戦うことができた。徐々にボールを繋げたし、そこまで心配はなかった。リスクを背負い過ぎても、先に失点をしてしまうだけ。『いつもの自分たち』とは少し違うのかもですが、『簡単な選択』も頭に入れながら戦えば、『徐々にスペースはできる』という考えはみんなにあった。ジエゴとのコンビはコヤと組む際と違う個性を活かし、窮屈にならないように気を利かせながらプレーをしていくつもり。前線の選手が良い動きをしてくれているから、自分たちも良い選択ができる。人が変われば、多少変化をするものですが、『攻撃的に』という意味ではみんな同じことができている」
その三丸の逆サイドには馬場晴也。
久保藤次郎に代わりポジションを1つ上げた原田亘の背後を固めながら、波打つように陣形を変える右サイドのローテーションを乗りこなした。垣田裕暉や古賀太陽に次ぐサイズ感や即時奪回の強さ、躊躇いなくボールを配れる力といった多彩さにも期待が掛かる。

「右CBは攻守において色々な形がある。相手によって形を変えていく必要がある。立ち位置を変え、選ぶ前に相手の出方や視線、状況を先に動かすことが重要」
そう話す、馬場の「すべきこと」とは。
「自分には『相手の視線を動かすこと』や『立ち位置』といった駆け引きもありますけど、まずは『相手を見ること』があります。試合によって、リカルドから直接提示される戦い方もありますけど、『相手・味方・スペースを見る』ところは今までやってきたサッカーと違いますから、楽しいですよね。やり甲斐もすごくあって、頭も体も疲れますけど、『もっとやっていたい』と感じる楽しさがあります。プロになってから1番面白いサッカーをしているし、『やり甲斐』は段違いのものがある。今は『すべきこと』や『やりたいこと』の理解はよくできている。そこで自分の良さを出すことや地位の確立のために、『さらに何を出していけるか』という段階。ある程度はできていて、次はその段階にあると思う」

私としては馬場が感じている現状やこの先の展望、それらを作る気持ちの部分までを知れた良い機会になった。
彼らを快適に上下動させるのは山田雄士。最も、彼には「チャンスの扉」のノブを見つけて回してしまう中川敦瑛との棲み分けというタスクがまずあるようにも映る。
「うーん…『すべきこと』ですか。なんすかねー(※『なんでしょうね』の意)?」と話し出す山田。

「自分の場合は『バランスをとる』ということ。ビルドアップをする場面なら、後ろから助けながら、スムーズにホールが動くようにシャドーの選手や時には相手選手も使ってスピードを調整する。相手を押し込めれば、前線へ入っていく攻撃の考えもありますけど、カウンターへのリスク管理を施しながら。守備ではまず『セカンドボールを奪うこと』。自分は高さがないから狙われますが、負けないように、自分が『穴』にならないように。その役割の中で『自分のプレーを出し切ることがチームの助けになる』と信じているので、『チームのために自分を犠牲にしてしまうことのないように』とも思っています。でも、その塩梅となると、難しいですけどね(笑)。理想としては『自分を出した結果としてチームが助かった』となるように、と」
常に首を振り、クルッとターンして、スルッとボールを運ぶなり動かしてくれる。そんな作業を繰り返す、頼もしい「ピボーテ(支点)」。いわば、このレイソルのサッカーの「申し子」の1人。これらはそのまま山田に伝えた気持ちだ。
「そーすかねー(※『そうですかね?』の意。少し謙遜して、照れている)?そこはみんなで話し合いながら。その意味ではみんなが『申し子』ですよ」
少し謙遜して、照れていた「申し子」だったが、頼りにしているよ。
この2試合の幕引きを担ったのは戸嶋祥郎。
ピッチを広く使った、緩急にも満ちたビルドアップから試合を終らせるゴールをスコア。
その時間帯や揺れる三協フロンテア柏スタジアムの光景はいつかのデジャヴだったが、どんな形でも試合へ関わる選手たちに求められるメンタリティが詰まったひと仕事だった。
「スタートからでも、そうでなくても、練習でも、試合でも、『100パーセントの力を注ぐように』と監督から言われている。その意識を形にできた。自分たち途中出場の選手たちの自信にもなったし、アピールに繋げることもできた。スタートのメンバーや試合に出られなかったメンバーへの刺激にもなったはず。それに関わることができて自分はうれしい」

ゴールの振り返りをもらう中で「世界一短いニースライドだったでしょ」と笑う戸嶋にも聞かせてもらった。もう何度聞いたのかという話だが。またしても、「すべきこと」をすべからく。
「交代出場の場合、『意図』を持って起用をされるもの。ルヴァン杯の2試合に関しては『試合を締める』役割を担っていた。自分としては初戦の中で悔しい部分もあって、仲間たちに救われた。2戦目は『少なくとも失点0で』と臨んでいたし、『チャンスがあれば、ゴールを』と。そこは出来過ぎ以上の形で終わることができた。例えば、FWなら『ゴール』という結果が。DFなら『ボールを運ばせない』という役割が『すべきこと』としてあると思う。今は自ずと選手たちが感じて、表現できているかなと思います」
この日に見たゴールセレブレーションまでの再現がまた見られたら、このチームは…と思わせる素晴らしい仕事だった。

アシストは小見洋太。戸嶋が「小見への声援を」とアクションをしていたのは印象的だった。
小見の出場機会となると、まだまだ限定的だが、「良質なインパクトを残している」と記して良いと思う。
レイソル初出場となった6月の東京V戦では思い切りの良い判断が印象。私の感想は「選択がやんちゃで興味深い」というものだったのだが、あれから時は流れ、ヘアスタイルも何度か変わり、9月も半分を過ぎたところでマイクを向けさせてもらった。

「チームへのフィット…というより、やっぱり、『プレータイムを増やしたい』という気持ちはあります」
そうはっきりと意志を話しながらも、「例えば、自分が『目に見える結果』を出すことができても、まだ『スタメン』へは足りてはいない。今以上の、何か圧倒的なパフォーマンスを練習から発揮していかないと」と現実と向き合い、自分磨きに余念がない。
とはいえ、新潟時代、我々に見せつけた小気味良いドリブルや鼻の効くフリーランからチャンスに絡む小見のクオリティは多くのレイソルサポーターの関心事。「あのPK」だって楽しみにしている。
この夏、レイソルへ加入した小見における「すべきこと」となると、やはり「チームへのフィット」となるのだろうが、小見は感じてしまった柏レイソルに通う「メンタリティ」に言及した。その際の少し見開いた瞳が印象的だった。
「自分にとって『優勝争い』という経験は初めてのこと。レイソルは一丸となって優勝を目指しているので、何よりまず『チーム』が優先となりますし、その中で『自分がどのような振る舞いをするべきか』をしっかり考えながら、行動しています。レイソルは…特に歳上の選手たちがどんな状況でもネガティヴなことを言わず、表にも出さず、試合や練習に取り組んでいる。その姿を歳下の選手たちが見て、影響を受けていて、それぞれ自立している。その意味で『大人のチーム』とも言えますし、良い意味で『サッカー選手らしくない』くらい(笑)。『良いアスリートの典型』といっていい選手たちが揃った集団だと感じています。自分もその1人となっていけたら」

その「メンタリティ」を心に染み込ますことが「すべきこと」だと受け取ってはみたが、その前に「やんちゃ」も見てみたいとリクエストすると、「意外と大人しいと言われますけど、がんばります」と微笑んでクラブハウスへ消えていった。
「小見は『個』でシュートまでいける選手。ドリブルもあって、色んな体勢からシュートが打てる選手。攻守両面でチームに貢献できる選手なので、自分も楽しみにしているんです」
今夏に再びチームメイトとなった小見をこのように紹介してくれたのは小島亨介。
ここで、文脈を戻せば、小島は何かが狂えば、違う結末にもなり得たこの横浜FMとの2試合をコントロールしてくれた選手の1人だったと言っていいだろう。
1試合に数回あるかないかのシリアスなシーンを「ないもの」とし、シュートを阻む姿には度々震えさせられる。
戸嶋が決めた攻撃の際にもギアチェンジの一個手前にあった見事な仕事も印象的だった。
相変わらず、「CB然」とビルドアップに加わり、相手選手との数秒の駆け引き。誘いも誘われもせず、間合いを制した。まさに「相手を見て」という、この沈黙の瞬間が古賀太陽にポジショニングの時間を与え、古賀がギアチェンジ的なフィードを瀬川祐輔へ合わせた。小島が生み出した「間」はこの日に見られたビッグプレーの1つだった。
だが、試合後は慎重を貫いた。
「まだ『理想の試合』には程遠い現状にはあって、そこは『伸びシロ』と捉えていますし、『ボールを持ち、圧倒して、ゴールを決めて、無失点で試合を終える』という理想や高い基準を求めていくことで『タイトル』へ繋がっていく。『勝って反省』をしていきたい。まだ『パーフェクト』とは言えませんからね。それを表現できるよう、日頃から準備をしていきたい」

休む間もなく出場を続けるが、「ありがたい」と言い。「GKたちの代表として」とピッチに立つという小島にも「すべきこと」を聞かせてもらった。
「チームも個人もアップデートしていかなくてはいけない。自分たちがずっと同じままではいけない。『チームのやり方』や『個のプレーの幅』をアップデートする点では自分から前線の選手へ向けて、ライナー性のボールを当ててみたりだとか…今日も太陽から前へボールを送って、サイドへ振ってからゴールへ繋げた。後ろの選手からのボールの質なども良くなっている。そういったバリエーションを増やすことで『相手の守備の的』が敷き辛くなるはず。それらを相手の状況によって使い分けること。ショートパスで前進していくのか、その使い分けのバランスは増やしながら、見極めて続けていきたい」
小島が感じ、話した「すべきこと」からは現状から発展や成長を模索するフェーズであることが透けて見える。そして、これらの試合に見られるように小島がいると試合が締まる。また、記事も締まる。

今回、「すべきこと」を追うと見えてくるものがあった。
まず、彼らは「すべきこと」に集中している。「すべきこと」から彼らそれぞれの立ち位置が見えてきたのも発見だった。これらはまた変化をしていくものだから、その感覚を尊重することはマストだったし、多少飾り付けはしても、ここで言い切ること、言葉に乗っかって、まるで自分の言葉としないように執筆したつもり。
今回は彼らから聞かせてもらったことを伝えたまで。それこそ、私の「すべきこと」だから。
この記事を書いたライター
