・・生き残る者は変化できる者(ダーウィン)

ふれあい毎日連載

DRリポート252回

日本大学松戸歯学部有病者歯科検査医学講座 准教授 田中陽子先生

「こどもは大人のミニチュアではない」という言葉を聞いたとはありますか。フランス革命に大きな影響を与えた哲学者、ルソーの言葉です。「エミール」に記された彼の思想は現代の児童教育に影響を与えているとされています。こどもは、小さな大人ではなく、発達という独特な段階にいます。

リハビリテーションという言葉がありますが、これはキリスト教の破門を取り消すという概念から生まれ、名誉回復の意味を経て、今では疾病や外傷で失った機能回復のみならず、社会復帰、全人的な尊厳や権利の回復に対して行われるすべての活動を示す言葉として利用されるようになりました。

では、機能獲得に至っていない発達段階にいるこどもはどうでしょう。「Re」をぬいた「ハビリテーション」と表現され、こどもが持っている機能を生かし、さらに発達させるための支援になります。多くは先天的な障害や幼少期の障害をもつこどもが対象になります。

医療的ケア児の増加に伴って

日本では出生数は減少している一方、低出生体重児の出生数は増加しています。日本で誕生した母子手帳は世界に広がっていますが、低出生体重児の場合、空欄が多くなります。そこで誕生したのがリトルベービーハンドブックです。

2018年に静岡で始まり今では全国に広がっています。医療の進歩により、先天性や小児期の疾患の救命が可能になっています。こうしたこどもは気管切開、人工呼吸器、経管栄養などの医療ディバイスが必要となる例が多くあります。長期入院から在宅への移行促進の政策が打ち出されたのをきっかけに医療ディバイスが必要な医療的ケア児の多くが早々に在宅で生活するようになりました。良い面も沢山ありますが、家族にとっては不安な気持ちを抱えながらの生活です。

図1:「医療的ケア児の推移」  千葉県健康福祉部子育て支援課

医療的ケア児はこの15年で約2倍に(図1)、人工呼吸器使用のこどもは約10倍に増加しています。当院地域医療連携統括センターでは現在毎月80名ほどの患者さんの訪問診療を行っておりますが、約80%が医療的ケアの必要なこどもたちです(図2)。

図2;日本大学松戸歯学部付属病院地域医療連携統括センターにおける年齢別患者割合

2023年の経済財政運営と改革の基本方針でリハビリテーション、栄養管理および口腔管理の連携・推進が強く推奨されました。これは高齢者に限ったものではありません。こどもも同様です。この3本柱の連携は主観的な要望と客観的な必要性が一致しており、ハビリテーションの必要なこどもとその家族にとって大切な支援です。

人類の真の進化とは

「種の起源」で知られるダーウィンは児童心理学の祖でもあり、「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き残るのでもなく、唯一、生き残る者は変化できる者である」という言葉を残しました。これは環境が生き残る者にその方向性を与えた結果です。ハビリテーションの必要なこどもとその家族を支援する環境を社会全体で整えることは皆にとっての進化になるのではないでしょうか。尊い小さな命の炎がそれぞれの地域で場所でより大きな炎へと育っていることを心にとめていただけたらと思います。

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