
「逆転のレイソル」…?/Intro -繊細、且つ大胆に-

逆転に次ぐ逆転で「J1リーグ首位戦線」を展開する私たちの柏レイソル。
この8月を終えた状況で「勝点53」の2位。
このような記述が翌週には一時的な記述として以外に何の意味も持たないほど過熱している首位戦線の中でたくましく戦いを続けている。
8月22日の浦和戦は我々に勇気と希望をもたらす大勝利だった。
前半に喫してしまった2点のビハインドをひっくり返して、4ー2で勝利。三協フロンテア柏スタジアムは歓喜の声で大爆発。その歓喜の塊のようなものは柏市内を駆け抜けて、そのあまりの強さにスタジアムに程近い若葉保育園にたなびく応援メッセージやレイソルロードに飾られたフラッグたちは大きく揺れていたことだろう。
この素晴らしい結果にリカルド・ロドリゲス監督も胸を張った。
「アウェイでの鹿島戦と同じく、先日の浦和戦での逆転勝利という結果は、このチームにとって…そして、今シーズンだけではなく、今後このチームの歴史にとっても重要な試合になったかと思っている。浦和戦は『我々、柏レイソルはどのようなクラブが相手でも、私たちはスタイルを貫き、また貫き、素晴らしい試合をして、勝利することができるということを証明した試合だった』と思っている。この試合は我々に自信を与えただけではなく、このクラブの今後にとって、とても重要な、歴史的にも重要な試合になったと思っている」
この時、22時間から24時間程度、リーグ首位には立ってはいたが、「明日またどこかが勝てば、自分たちは『首位』ではないわけで。そういう意味でもまた『勝って、改善』の連続になっていく。『前半の失点』、『点が獲れなかったこと』、そこまた改めて良い準備をと」(瀬川祐輔)という言葉が聞こえてくる。
今、見つめるべきは順位表ではなく、『自分たちについて』、または『自分たちのスタイルについて』なんだと言われた気がしていた。
さて、この「自分たちのスタイル」ー。
または「自分たちのサッカー」ー。
このワードに私たち日本のサッカーファンは翻弄されてきた。私が出した結論は「チームと選手たちが理解していたらそれでいいのではないか?」なのだが、私は今季、選手たちに何回か訊ねてみている。いやいや、これは「言語化」なんて洒落たものではないし、私は番組コピーやテロップを作る仕事はしていない。彼らにあるフィーリングに用がある。
例えば、こんな感じで。
「自分たちは『守備が連動できているチーム』。相手に攻撃をさせる時間を与えていないことが自分たちの強さの要因。連動した守備があるから、DF陣の『回収』の回数が増えている。そこは年間を通して上手くできている。2失点したことは修正しなくてはいけないですが、ああいった展開を続けながら試合を運び、相手が疲弊していくのは多くの試合で経験してきた。体力的にも精神的にも相手を苦しめるような戦いができた結果として後半の攻勢を作れている」(垣田裕暉)

「『ほぼハーフコートで試合を進めること』は自分たちの理想。あの状況をどれだけ長くやれるかという意味で新たな基準となった試合になった。中盤の選手たちも自由に動くことが多いので、そこも相手を困らせていると思います。自由に動きながらも繋がっている、そこは彼らにしかできないことですし、脅威になると思います。『ピッチ全体にバランス良く立ってプレーすること』を学んできた自分からすると、今のチームは『相手を見ながら常に変化を起こし続けること』ができるチーム。似たような部分は確かにありますけど、経験的にはプラスアルファがさらに加わっている気がしています」(古賀太陽)

このように、ある日の2時間ほどの取材の中でもいくつか出てくるもの。またそれ以前から、その都度その都度で、今のチームから見える新たな視野を私は求めているし、選手たちの新たな魅力だって掘り起こせるポテンシャルがあると見て、良く聞いていた。「今のサッカーってどんなサッカー?」というように。「型」がある選手ほど、有益だ。「言葉」を持つ選手ほど聞き甲斐があるし、マイクを向けた後の学びは豊かだ。
「今のレイソルのサッカーは『ボールに対してサポートをする』。それが1人ではなくて、サポートをしている選手をさらにサポートしているような形。しかも、それを『頭で考えなくてもできている』。そんな感覚がありますね。ボールを握り続ける分、例えば、その時間が5分経てば、その分のスペースも空いてくる。自分はそのスペースを使うし、例えば、太陽はそのスペースへボールを出してくれるし。『味方を助け合いながら前進をしていく』という理解ですかね」(瀬川祐輔)

「1番は『効率性』。且つ、『攻撃的』。この効率性の部分で云えば、『必要以上に動く必要はない』ところ。これはチームメイトたちから強く感じ、学ばさせられた部分。自分は『質より量・他の人の分も』とやってきた選手。でも、そこがあまりに飛び抜け過ぎてしまうとスペースを与えることになる。だから、『チームを信じて、求められることを続ける』こともそうですし、『自陣の後ろからボールを保持して、相手陣内でプレーをやり切る。ボールを奪われたらすぐに奪い返す。相手陣内でのプレーを続けること』が必要で、それこそ『リカルドのサッカー』の特長になるんだと理解をしています」(戸嶋祥郎)

時にはマイクを向けさてもらった取材対象者のポジションを疑いたくなる程の「白眉」だって得られる。踏み込み過ぎた領域については割愛する取り決めの下、許容範囲内で話を聞かせてもらう。これでもまだ続きがあるほどだ。
「積み上げてきたことにバリエーションやアクセントを加えながらやってきていますが、この時期にもなれば、様々な分析がなされてくるもの。自分たちも変化をしなくてはいけないし、自分が攻撃に介入する場合にはよりスムーズに進むようにしている。相手の『強度』、『そのベクトル』を見ながら、判断を変えていく。そこは『レイソルのサッカー』をするためにはすごく重要だと思います。そこに注意は払いつつ、且つ大胆にというところを自分は大切にしています。言葉にすると、『繊細、且つ大胆に』。リスクはあっても、自分が『プラス1』を作って効果的に関われている。その場合の判断は特に大事。相手を見て、ピッチレベルで気がつき、瞬時に変えられるようになるような『気づきの速さ』は今後大事になる。自分たちがピッチで直接得た『肌感覚』も大事にしていますが、監督たちの客観視にも頼りながら、常にベンチとコミュケーションを取りながら」(小島亨介)

そして、この場合、レイソルを表現するワードとして小島が用いた「繊細、且つ大胆に」という感覚は、言い得て妙。
大胆な守備から繊細なパスワークを経由して大胆なフィニッシュ。
繊細にオーガナイズされたボール奪取から攻め入るように見せて大胆なスローダウン。
CBの1名が相手ペナルティエリアの角に大胆に馳せ参じる。その横を繊細なパスと選手が駆け抜けていく。
そんなシーンを何度見たことか。
浦和戦では垣田の駆け引きがものを言った感があった。確かに失点は2つしてしまった。だが、あの大男がひたむきに圧力をかけ続けた。CBにGKに忍び寄っていった。チャンスとなればCBとの骨の軋むようなバトルを展開。手の扱いやステップで翻弄しようとする垣田は彼方にとっては頭痛の種だったと信じたいし、実に繊細な意味を持つ取り組みだった。
そのバトルで生まれたスペースを上手に活かしたのは小泉佳穂や渡井理己、山田雄士、中川敦瑛だったのは言うまでもない。時に大胆に陣形を変えながら、数多のパスを繋ぎ、彼方にたくさんのバックステップを踏ませ、空虚なスプリントをさせていた。垣田が相手の前進に蓋をしていたから。
「自分は相手のCBを背負ってプレーをすることになった。相手の裏を狙うことはスペース的にできなかったので。もっとできたこともありましたが、タイミングを見ながらしっかりとやることはできたと思っています。あの位置で踏ん張って『時間』を作ることはできたと思います」
そう胸を張る垣田は頼もしかった。だが、シナリオが変わってしまった。ただ、それだけの話なのだ。
スコア的には劣勢ながら、冷たいほどにテクニカルだった前半とはうって変わって瀬川祐輔に細谷真大、仲間隼斗といった「強度たち」を立て続けに投入。新たなシナリオは文字通り、「勝負を懸けた」ものだったと推測する。
R・ロドリゲス監督が「私がやりたいサッカーの全てを知っている選手だ」と話すほどクリエイティヴな選手ながら、闘志剥き出しの小西雄大は「強度」たちを活かすリンクマンとしての役割を果たすだけでなく、スーパーゴールで試合を決めてみせた。

そして、この素敵なショーの幕引きを担ったのは小屋松知哉と久保藤次郎。私たちの自慢の両ウイングだ。面白いように左を制していた小屋松のシュートのこぼれ球を久保が叩き込み、犬飼智也が久保を讃えながら抱きしめた。
ゴールに繋がる小屋松のシュートに至るその寸前。トラップが流れ、離れたボールを扱い直しながら、見事なキープ。小屋松へリボン付きのパスを出したのは中川。

毎試合成長をする。試合中にも成長をしてしまう、この恐るべき若者は、この日のスコアラーである瀬川に細谷、小西と久保を凌ぐインパクトを放っていたように私には映り、「『マン・オブ・ザ・マッチ級』の仕事ぶりだった」と方々へ流布したくらいだ。
今では去来した気持ちや様々な出来事、威勢の良い言葉だって口にできてしまう。今はまるで彼のプレー選択のように余裕がある。
「後半も『点は獲れるな…』と感じていたし、自分たちはやり続けるだけだと。『あの2点』は素晴らしい『個』を見せつけられた気持ちでしたが、『組織』や『チーム』としては自分たちに分があるものだと信じていた。『押し込んで押し込んで、リスク管理をする』形は後半に見せられたと思う。練習からやっていることを試合で出すことができたから、今日のように相手に引かれいても、正直言って、あまり難しさは感じていなかった。チームメイトたちを信じた結果がこの4ゴールへ繋がった」
レイソルは背番号の空き番号、その取り扱いについて検討を始めていい頃かもしれない。
あまりの大勝利を見届けて浮かれていた私が本来引き出す必要があった言葉や事実を回収してくれたのは原田亘。

「先に2失点を喫してしまっていたので、『難しい試合にしてしまったな…』という気持ちだったし、前線の選手たちが素晴らしいプレーをしてくれて、『彼らに助けられた』という思いでした。勝つことができたので言えることなのですが、『前半は相手を走らせておきたい』という狙いと『サイドを変えていこう』という意識がありました。それはチームとしても、選手間の中でも。後半は瀬川くんにマオ、隼斗くんという裏を取る特長のある選手たちが揃って、自分たち『出し手』からしてもやりやすくなった。岡山戦での課題でもある、『ビルドアップにこだわり過ぎて、足下で奪われてしまう』というところに関しては裏を突く形などを出せた。岡山戦の課題はしっかりと活かせたと感じています。今日の勝利を連勝に変えていきたいし、4点獲れたところはまた次にも活かしたい。良いところはあるけれど、2点奪われているのは反省点。自分たちが早い時間帯から後半のサッカーをすることを意識していきたい」
原田は「実は結構早い段階でバテてはいたんですけどね」と笑っていたが、失点の直後にまるで攻撃的MFのように、浦和陣内で「ローテーション」という名の「渦」を巻き起こして、そこへ突っかけていった私たちの右CBのたくましさをしっかりと憶えている。
…まったく悪い癖だ。コメントを流し込み過ぎた。とかく「構造」という言葉が目立ち出したサッカー界にいながら、記事の構造をスタンバイできていない。まだ小泉たちの言葉を載せられていない。
だが、記事の内容の編集権はこういう時に役に立つ。この続きは後編へ進もうかと思う。

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