記憶に残る残らないはこちらが決める
〜過去最低の出来〜
今季の柏レイソルのルヴァン杯が国立競技場で終了した。
結果はサンフレッチェ広島に敗戦(1ー3)ー。
「準優勝チームは記憶に残らない」
きっと有名な誰かが言ったのであろう。その誰かはおろか、何かしらの準優勝すらしたことのない多くの人たちまでもがそう言うので、どうやらそうなのらしい。
まあ、そこについてはこっちはこっちで決めますけど。
だから、記憶をしておきたいなと思う。
なにせ、私たちの柏レイソルは眩しいサイクルをスタートさせたシーズン。こういう場合、私たちは何故か船に喩えるのだが、「船出のシーズン」なのである。
もっと云えば、「そのシーズンの真っ只中」だ。メダルとカップは望んだデザインのものを持ち帰ることはできなかったが、カップ戦はカップ戦、リーグ戦はリーグ戦。どんなクラブでプレーをするにせよ、勝っても負けても、「攻守の切り替え」と「気持ちの切り替え」は彼らの最も大切な仕事の一つ。しかし、なかなか手に入らない貴重な経験を手に入れたことを忘れてはいけない。
撮影には最高な光量に包まれていた国立競技場のピッチに広がったのは「自分たちが続けてきたサッカー」を貫いたチームと「したたかに決勝戦を戦った」チーム。そんな構図の一戦。また、この日、スタジアムで配布されたマッチデープログラムの表紙の人選は結果的に「芯を食った」人選となっていたことはここに残しておこう。
面白いもので、今になって悔しさが込み上げつつある。
あの日の試合後、取材エリアへ現れた中川敦瑛の声はいつもより少しだけ静かだった気がした。
「今日の自分…自分の中では『過去最低』の出来。前半のようなプレーをしていてはいけない。チームとしても効果的な形を作れずに戦っていた。もう少し早くにやり方や陣形を変えてみるなど、アクションを起こせたらよかった。自分もメンタルの面で難しいところがありましたけど、佳穂くんたちが引っ張りあげてくれていたので、その気持ちや期待にもっと応えていかなくてはいけなかった。自分はこのルヴァン杯の山口戦から起用してもらって、徐々に出場機会をもらえるようになった。その意味でも自分にとっては『特別な大会』でした。『最後は笑って終わりたかった』。率直な感想としてはそうだとしても、簡単な大会ではなかった」

まるで彼の巧みなボール扱いのように、時にテクニカルに、時に力強く、また律儀に駆け抜けてきた素晴らしいシーズンの終盤。数々のドアをノックしてきた。この日も笑顔で集合写真に収まっていた中川の目の前に立ちはだかったドアは「後悔」という名のドアだった。
〜役者の違い〜
中川がどうそのドアの内鍵を施錠するのかは注目となるのだが、そんな若者たちを包むべきだったと話していたのは小屋松知哉。
「試合を見返してみて、『前半を失点ゼロで終えるべきだった』と思った。ボールを持てなくても、多少割り切ってもよかったのかなと。決勝戦だったことを踏まえると。ノブや佑成をはじめとして、『決勝戦』という試合を経験していない選手たちも多くいた。彼らを少しでも試合に慣らせてあげるというか、そんな時間があってもよかったとは思う」
常に達観したような客観視で、その時々のレビューをくれる小屋松に国立競技場でのチームについて振り返ってもらった。

「チーム自体はメンタル的にも硬くなっていたりはしなかったとは思います。人が変わりましたし、チームバランスや決勝での経験値、戦い方を含めて、『まだまだ自分たちは未熟』だったと、試合を見返してからすごく感じていました。『そこ』は広島にはあって、自分たちにはなかったところ。ただ、自分たちのスタイルを表現できた部分は自分たちの強みとしてあるし、ポジティヴに捉えていいところだと思うので、チーム全体として悲観するものではないと思います」
個人的には瀬川祐輔と並ぶ、「決勝戦に強い人」である小屋松。私の中では2年前の天皇杯決勝戦でのベストプレーヤーの1人(もう1人は立田悠悟)。
今回の決勝戦でも歌舞伎役者のすり足のようなステップで国立競技場を駆け抜けていた。チームから「とにかく、走り続けろ」と言われれば、走り続けた。「サイドを」と言われれば、見事な仕掛けを繰り返した。「中盤を」と言われれば、巧みにスペースを陥れた。忠実にオーダーをこなすチーム屈指の「ポリバレンテ(Polivalente/多才な)」。その源について聞くとまた頼もしかった。
「自分はもう、この『ギョーカイ』が長いので(笑)。例えば、目の前の試合が、何かの『決勝戦』であろうと、『1回戦』であろうと、試合は試合。自分には経験値がありますしね。『試合を楽しんで』というところは大切に。試合は1回しかありませんから、硬くならず臨めているのはそこかなと。『決勝戦』という試合はなかなか経験できるものではない。ノブや佑成たちはまた残り試合のすへてが決勝戦のような意味を持つ試合になっていく中で、ストレスもあるし、また違う緊張感だって味わうことになるはずですから、この経験を今後に活かしていってもらいたいですね」

小屋松の見事なインスウィングのミドルシュートから始まったこのチームのシーズンはまだ終わっていない。こちらの目を見やり、ちょっと力を抜いて話してくれた小屋松の言葉の中に、このチーム特有の「性格」や「自信」を感じたし、安心感もあった。
大見栄こそ切らないが、彼がずっとここにいる理由を理解するシーズンはまだクライマックスの手前。何か大きな仕事をしてくれそうな彼だが、その際もクールに振る舞いそうなところがすごくいい。役者が違うのだ。
〜翼を休めて〜
前半での3失点。この事実に最も直接的に向き合うこととなったのは小島亨介。その心中は察するに余りあるところ。
小島は比較的端的に試合を総括してくれた。
「ただただ悔しいですし、自分の実力不足だったと思います。前半に3失点してしまったので、後半はなんとしても点を獲りにいくんだというところで、ある程度のリスクを背負いながら攻撃へ繋げていった。だから、前半と後半では異なる形になったのだと思います」

では、何が起きていた?
「前半から、『相手の土俵』で戦ってしまったところはありました。『オールコート・マンツーマン・ディフェンス』のような形に対して、自分たちは良い循環でボールを動かせていなかった。また、繋げても潰されてしまって、高い位置でロングスローで…セットプレーでという展開。相手かやりたいことをやらせてしまっていた」
さらに小島は「じゃあ、『相手にとって何が嫌だったのか?』」についても併せて言及。
「こちらから見た前線は相手と同数だったわけで。スペースもある状況だった。そのスペースへ走り込んで、ロングボールを配球していくことを繰り返していけば、相手ももっと走らなければならなくなるし、相手のDFは広いスペースを守らなければいけなくなる。その『ジャブ』は後半に効いてきたはずで。『もっと相手を動かすべきだった』と思います。マンツーマンで付いてこられている状況ではボールを回されても疲れない。どこかに的を絞りながら、そこへ全力を出すというのはそれほど難しいことではないですし。自分たちは『相手が嫌がること』をできていなかったなと思います」
小島の言葉が空論化をしないのは、彼がレイソルで残してきた実績がそうさせる。彼はこれらのアイデアの当事者の1人であり、表現者の1人であるから。
また、興味深いやりとりもあった。
それは「このチームはリスクを背負った際に素晴らしい力を発揮することが多い」というこちらの投げ掛けから生まれた。何度も見せてくれている後半のラッシュについての言及である。私は決勝戦について「前半を大事にいき過ぎたのではないか?」という感覚を持っていた記者の1人。そのあたりについても小島は回収をしてくれた。
「そうですね…その感覚については結構、自分も似ている捉え方をしています。ただ、後半にやりやすいというのは前半からの蓄積もあるし、相手の運動量も落ちてきて、より押し込みやすい状況にあることであったり、カウンターにも出て行き辛いというところもあるとは思います。もちろん、前半から厚みのある攻撃で押し込んで、攻守が切り替わっても高い位置で奪い返して…をやりたいですが、相手も高い強度がある。その場合は我慢も大事になるもの。理想は高い位置で厚みのある攻撃で押し込んで、カウンターも封じる。それを実行するには時間帯やバランスの見極めというのは大事。それらがうまくいっている場合は前半から良いゲームができている。噛み合わなければ、後半から自分たちの良さが出てくる展開になることが多い。まずは相手を見てという部分でもありますけど、前半を大事にいき過ぎないことも大事ですし、どんな時もその日の相手、その強度のところで判断をしていかなくてはいけないですね」

最初にこちらを立ててくれた以上、それ以上を求めることを自分が望まなかった。だが、小島にマイクを向けさせてもらってよかった。
そして、「この先」について話を向けた。
「時間は限られているので、まずは『1回の練習』を大事にしていきたい。『シーズンの先を見据える』というよりも、目の前の1試合へ向けて、1日1日をしっかりやっていきたい。『自分たちが次の試合へ向けてやるべきこと』を整備をして、理解をして、体現をできるように1日をやっていきたい。そのように練習していくのは今までと変わらないことですし、その気持ちで毎日に臨んだ先に『優勝』というものが見えてくるのだと思っている。あまりに先に目を向けず、目の前の練習にしっかりと取り組む。その積み重ねで毎日を過ごしていきたいと思っています」
ポジション柄、ユニフォームを汚して我々の前に現れることが多い選手ではあるが、この日も両肩に至る部分まで真っ黒。「あの日」のために写真を撮らせてもらった際には翼のように映っていたことを憶えている。
きっと、この日も何度もユニフォームを汚し、ボールを抱えながら立ち上がったのだろう。結果から言わせてもらえば、それは今の小島が置かれたシチュエーションにも近いのかもしれない。どのように立ち上がり、どんな整備や理解、体現を見せてくれるのかは楽しみの1つとなった。

〜ディテールとファイリング〜
今季新たなディテールをチームにもたらしながら、「タイトル獲得」への渇望をはっきりと口にしてきた三丸拡はこの結果をどう感じているのだろうか?
三丸は「攻撃的な守備者」である。しかし、守備者としては「3」という失点には思うところもあるはずだと。
「どんなに良い試合をしていても、セットプレーから負けてしまうというのは執念の差なのか、戦術的な部分なのか、ボールを主体的に持つことだけが良いサッカーというわけではないとは思っているし、その意味では単純に『1つの試合に勝つ』という意味において、広島さんに上回られてしまった試合。一度しっかりと負けを認める必要があるし、自分たちに劣っていた部分があり、あの結果になった。個人やチームで突き詰めるべきことがまだあった。『突き詰め切れない甘さ』のようなものが出たのはあのような舞台で戦う上では致命的だった。言葉にすれば『悔しい』の一言ですが、この経験を糧にしなくてはいけないし、試合はまだあって、来年にも繋げていくことも必要。そのあたりをチームとして考えていくべきなんだと思う」

では、このチームの象徴的なディテールを担う、「攻撃的な守備者」として、目の前に広がっていた広島の守備に対する視野や感覚についても聞かせてもらった。
「たぶん、『5バック』と一括りにしてみても、G大阪戦と横浜戦、広島戦。それぞれ狙いや守り方が違いますから、その意味で『5バックだから崩せない』とは言い切れないなと思っていて、自分たちは相手が『どういう守備の仕方をするのか』を見ながら戦う。広島戦で云えば、マンツーマンで来た広島に対して、自分たちはGKを含めて、1人フリーマンを作って、相手のサイドやCBを引っ張り出して、空いたスペースを使いたかった。その狙いの下、前の選手が後ろへ降りてきたり、自分のような選手が前へ飛び出したりしながら、『守備の穴』を作り出そうと。それはできていながら、最後の質や強引さ、シュート。アイデアやその共有が足りてはいなかったが、広島を相手に守備の穴を見つけ攻めていくに至る過程は表現できていた」
1つの見事なサイクルが極まるような成熟度を誇る広島に対して、健気に「いつも通り」や「自分たちがやってきたこと」を表現したレイソル。シーズンを通し、ようやく見つけた「いつも」を恥じることはない。王者には「大一番での『いつも』とは」に関する分厚いファイルがあった。一方のレイソルはそのファイルのページを増やすことができたのだから。

「どちらかというと、自分たちは『決勝戦だ!』と気負いながらというより、『いつも通り』の延長として戦っていた部分はある。あの結果で終わってしまいましたけど、そのような臨み方で良かったことの方が多かった。今年は特に。その臨み方を負けてしまうべきかについてはまだ分からない。試合の中の一部の細かい部分を除いては良い準備ができていたので、負けてしまったからすべてがダメだということではなく、継続と改善を続けていきたい。『何が起こってしまったのか?』という事象を分析して、それらを切り分けて考えていきたい」
経験したことを繋いでいけ、そして、その都度で適切に形を変えろ、不具合が起きたら冷静に素早く対処しよう。ということだ。
そう、それはまるで彼らが全てを懸けて戦った試合で見せてくれたサッカーのごとく。
焦るな、時間はかかる。しかし、その過程すら美しい。ボールはまだミッドフィールドあたりで行ったり来たり、細かく動いている、そのくらいの段階。
目指す「ゴール」への秒針の音は聞こえている。
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