時空を超えて訴えかける人々の姿《書の力 第54回》

ふれあい毎日

「木がくれの実より」  大澤竹胎 (1902-1955)昭和28(1953)年 第5回毎日書道展 紙本墨書 1幅 84.0×70.0 個人蔵

本年5月1日、ハンセン病訴訟原告副団長の志村康さんが亡くなったというニュースが流れました。かつて国はハンセン病患者を強制隔離する法律を施行。志村さんは昭和23年に発病し、中学卒業後すぐに始まった隔離生活は過酷な人生の幕開けとなりました。

この作品は、そうしたハンセン病患者たちの痛切な想いによって編まれた歌を題材とし、大澤竹胎が昭和28年に「木がくれの実」として発表したものです。映し出されるのは時空を超えて訴えかける人々の姿。書は時に、美しさを求めることだけを芸とせず、心を置き換える手段であることを物語ります。

「今はただ嘆きもあらぬ盲われ物の音こそ命となれり」という最後の句には、儚(はかな)い人の姿が浮かびます。この作品には、苦しみながら鼓動を打ち続ける人々の姿が、それぞれの人々の感情が、竹胎の力強い濃墨表現によって投影されています。

8月11日まで開催される成田山書道美術館「収蔵優品展 戦後日本「新しい書」のかたち」展でこちらの作品を公開します。(学芸員 谷本真里)
※この作品の詳細は公式図録(税込1200円)にご紹介。申込はお電話で。▽問☏0476・24・0774。

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