寄り道 ― 島野怜

おそらく、島野怜が今持っているストロングを発揮することでプロの世界を渡っていくつもりなら、他に行く宛はあったはずだし、そんな囁きを聞いていたかもしれない。今よりも試合へ出ていて、それなりの注目を浴びたかもしれない。

しかし、「寄り道」を選んだ。輝くものに惹かれてしまったから。

「それっぽいサッカーはもう中学と高校、大学までのサッカーでやってきたので、『もういいかな』と。対戦相手の選手たちを見て、思うこともありますけどね。自分にあるもの以外のものが柏レイソルにはあるし、自分に今あるものに、レイソルにあるものを加えていきたい。だから、レイソルなんですよ」

これまでの島野のスペックなら、インテンシティで上回り、前を向かさないようなプレスからレイソルを後退させて、サイドへ展開して、中央の守備の人数が増える前に仕留めるような速攻を仕掛ける。これらが正解かは分からないが、その類のいわゆる「レイソル対策」というサッカーの中で光ることはなんとなく想像ができる。183cmというサイズ感やここまでの在籍チーム、タフなプレーを身上とするのなら尚更だ。

だが、今日も黄色いウエアを着て汗を流している。

この項を書いている時点で、今季の島野は2試合に出場している。3月の浦和戦でデビューをして、続く水戸戦にも出場を果たした。鋭い目つきが特に記憶に残っている。

島野にそのフィードバックをもらうと少し浮かない表情。この1月に「いつか自分は『レイくん』を超えるんで」と言い放った姿とはかなり違っていた。

ちょっと苦労をしている。自分が一番分かっている。

「あの2試合での自分のプレーは正直、『あれなら誰でもできるよな』という気持ち。あの2試合での自分のプレーというのは『島野怜』という選手のプレーではなかったし、『誰でもできること』しかできていないなら、『まだ替えが利くよ』ということなので」

主に水戸戦に関する言及だとは思うが、厳しめのフィードバックが語られた。
「ボールを受ける回数も少ないし、守備でも背後を気にし過ぎてしまっていた」自分は『前でボールを奪う選手』なのに背後ばかりを気にしてしまっていた。状況を見ながら選択できることもあったし、『自分は何をするべきか』のところで後手に回ったところもある。もっと自分の『勘』のようなものを信じて良かった。直感的にした決断や判断でプレーを成功させてきた経験もある。『決断』は『勇気』とも言えると思いますけど、決断をした上で前へ出ていけば、また違ったのかもしれない。それも含めて経験ということだと思う」
いつもなら試合後の若手プロレスラーのように、抑えきれない気持ちを言葉に乗せながら、たぎってみせる島野だが、今回は冷静な自己分析が印象的だった。

きっと他所なら再びチャンスは来たかもしれない。だけど、ここはレイソル。「自分にあるもの以外のもの」があるクラブ。「苦労」という「寄り道」をしにここへ来た。

「大学時代と比べてみても、明らかに『できること』が増えている。それでもまだチームでは『最低限』のレベルでしかないので、良いボールを付けるなり、前へ運ぶなり、ゴールに対してプレーをしなくてはいけない。サッカーはゴールを取るスポーツ。そこはもっと意識していかないといけない。ゴールを決めたり、チャンスメイクをしてというように自分の価値を高めながら成長していかないと次は無い」

ただ、俊英たちが覇を競うこの世界では「寄り道」が必要ない瞬間が多くあることも理解している。

そう昔ではない、かつて。

「あのゴール裏の声援はたまらない。『あの中でプレーをしたい』という気持ち」を入団理由に挙げていた島野。大学時代、特に負傷を抱えていた昨年は太鼓を叩き、声を枯らしてきたタイプの選手だ。そのアンテナは妙に頷けるものがあるのだが、さて、日立台はどうだった?

「日立台の力はすごかったです。全体の一体感やチャンスの瞬間の雰囲気や盛り上がりも含めて。ピッチでは集中していますけど、試合に出るまでの間に『これはすごいぞ』と思っていました」

幸運にも、既に2回の「勝利のロレンソ」を経験している島野だが、2回とも表情を崩すことはなかった。メロディに合わせて身体を揺らしてはいたが、目つきは鋭く、怖いくらい冷静だった。

緊張していた?段取りが分からなかった?試合後に連続で飛ぶのはキツかった?
いや、全て違う。

「…でも、お金を払って、自分たちを応援をしてくださっているレイソルサポーターの方々に勝利を届けるのが自分たちの仕事。『勝ち』にも『一緒に喜び合う』ことに関しても、自分は貢献が足りていないので、『ゴール裏の時間』の真っ最中も、頭の中で、『自分じゃなくてもよかったかもな』と思っていたから」

以来、メンバー外が続いているから、ケガでもしているのかと思っていたが、むしろ頼もしくなっていた。だから、「待っていますよ」というと、食い気味に「満足したら自分は終わり。『絶対にやってやる』という気持ち。すぐいきます!」と島野。

我々がいったいどこへ行くのかはともかく。私が知る限り、君の素敵で、我々にとって特別な名前だけでなく、「君の中にあるもの」と、あの日立台の黄色いトライバルたちが放つ周波数は絶妙なものがあると思っている。レイソルで磨かれて巧くなるのも結構だ。「3試合目」は少し先なのかもしれないが、彼はいつも言う。不適な微笑みと共に。

「最後に笑うのは自分なんで」

既に想像はできる。「島野でよかった。島野じゃないとダメだ!」とサポーターが唸る様子が。だから、ちょっと歩いたら、帰って来なね。でも、寄り道中の目つきには気をつけて。

この記事を書いたライター

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