DRリポート263
歯の形に潜む病気のサイン②気づきにくい歯の形の落とし穴 ― 斜切痕 ―

日本大学松戸歯学部 解剖学講座 教授 塩崎 一成先生
歯の病気というと、むし歯や歯周病を思い浮かべる人が多いと思います。しかし、その背景には歯の形の特徴が関係していることもあります。前回は、歯の内部へ入り込む「盲孔」や、かみ合わせの面にできる「中心結節」という形態を紹介しました。今回は、歯の裏側から歯肉へと続く溝の構造である「斜切痕(しゃせっこん)」について紹介します。
歯肉へ続く深い溝
斜切痕は、主に上顎側切歯の裏側に見られることがある溝状の構造で、歯の裏側から歯肉の方向へ伸び、場合によっては歯根まで連続して存在することがあります(写真)。

歯の発育の過程で形成される形態の一つですが、その深さや長さには個人差があり、浅いものから歯根のかなり深い部分まで及ぶものまでさまざまです。このような溝は一見すると細い線のようにしか見えませんが、汚れや細菌が入り込みやすい構造となっています(図)。
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虫歯と歯周病のダブルパンチ
この部分は歯ブラシの毛先が届きにくいため、日常の清掃だけでは十分に汚れを取り除くことが難しく、細菌が停滞しやすい環境になります。その結果、歯肉に炎症が起こりやすくなり、歯肉の腫れや出血といった症状が現れることがあります。さらに炎症が進行すると歯周ポケットが深くなり、歯周炎へと移行することがあります。
また、斜切痕の特徴として重要なのは、この溝が歯の表面から歯根方向へ連続している点です。そのため、炎症が歯周組織に波及しやすく、歯周組織の破壊が局所的に進行することがあります。さらに、溝の深さや位置によっては歯の内部の感染と歯周組織の炎症が互いに影響し合い、「歯内・歯周病変」と呼ばれる複雑な状態を引き起こすこともあります(図)。このような場合には、歯肉の腫れや出血に加えて、歯の動揺や違和感、咬んだときの痛みなどが現れることもあります。

定期的な歯科検診を
斜切痕は外見からは分かりにくいことも多く、肉眼的な観察だけでは見逃されることもあります。そのため、歯科医院では探針による触診やレントゲン検査などを併用して診断を行います。特に原因がはっきりしない歯肉の腫れが繰り返される場合には、このような形態異常の存在を考慮することが重要です。
歯肉の腫れや出血が続く場合、その原因は単なる清掃不良だけとは限りません。歯の形の特徴が関係していることもあります。普段は意識することの少ない歯の形ですが、その小さな違いが歯肉や歯周組織の健康に大きな影響を及ぼすことがあります。定期的な歯科検診を受け、歯の形や歯肉の状態を含めて総合的に確認することが、歯を長く健康に保つために重要です。
■日本大学松戸歯学部付属病院☏047・360・7111(コールセンター)☏047・368・6111(代表)
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