その力ー若原智哉

三協フロンテア柏スタジアムとフクダ電子アリーナも開催された今年3回開催されている千葉ダービー。

その内の2回の対戦では良い仕事をされてしまっていた。実に40本を超える柏レイソルのシュートを凌いだGKだ。今回の加入の報が届いた際は妙に納得できていた。

今回、千葉から加入したGK若原智哉は今回の移籍に至る思いをこう話してくれた。

「正直に言えば、レイソルからのオファーが届いた時点ではすごく迷っていたんです。自分は千葉でも試合に出られていたので、『慣れた場所でがんばるのか』と『チャレンジをすべきなのか』を考えていました。でも、最後に『自分の成長を見据えた時』に、『慣れた場所よりも新しい場所でよりレベルの高い所に身を置き、様々なことを乗り越えられるその力を付けたい』という気持ちに辿り着き、レイソルを選びました」

若原が「その力」を付けていくにはうってつけの場所となるレイソルGK陣。つい先日まで約40キロほど隣にあるクラブにいたGKにとって、レイソルのGKグループがどのように映っていたのかについては興味があった。

「まず、レイソルには実戦経験のあるGKが揃っている印象がありますよ。みんな揃って足元の技術もある。きっとね、これからトレーニング重ねていく中で、たくさんの衝撃を受けていくんちゃうかなと思っているんですけど(笑)。今からそんなことにビビっていてはレイソルにきた意味が無いのでね。自分らしさを忘れずに常にそれを出していきたい」

とは言うが、京都から始まったこれまでの歩みを、着実に進めてきた選手でもある。そんな若原はレイソルに何を持ち込んでくれるのだろうか?彼のスペックを説明するには「レイソルが放った40本以上のシュートから生還したGK」と表現すれば、彼のレベルをある程度説明できるものだと思うが、この若原を説明する上で重要な証言が可能な選手がいる。今夏より徳島へ期限付き移籍中の田中隼人である。

田中は2024年の長崎で若原と攻守を担った経験を持つ。守備時は実戦経験を求めていた田中の後ろ盾となり、マイボールとなれば、サイドに開く田中らCBたちの間に立って『プラス1』となりボールを配っていた記憶がある。

「若原はビルドアップも上手な選手ですよ。相手のハイボールに対しても自信を持って出てきてくれるのでCBとしては助かります。それからやはり『セーブ』。シュートをキャッチミスしているのを見た事がないくらいです。多彩なGKですけど、『セーブ』の力が最も魅力だと個人的には思いますね」

私も2024年シーズンには何度か長崎の試合を取材している。リーグ最終盤には奇しくもフクアリでの「PKストップ」と「完封勝利」を目の当たりにしている。その他の試合以外でもゴールマウスで存在感を放って長崎の躍進を支えていた。田中が提示した若原のクオリティは迷いなく咀嚼することができた。

そして、若原は田中が挙げた「セーブ」というスペックに関して、思うところがあるという。

「自分たち日本人選手と海外の選手では体格も違いますけど、GKには『セーブ』が求められていることに変わりはありません。攻撃の選手における『ゴール』のように、GKの場合は試合を決定付ける『セーブ』が常に求められているし、GKは『シュートを止めてチームに勢いを』という姿を見せる必要がある。W杯の日本代表を見れば、鈴木彩艶(パルマ)のプレーが、チームをあのレベルに押し上げている部分があると思う。自分としてはUー20W杯(2019年)を一緒に戦った彩艶に大きく差を付けられてしまった焦りもあるのですが、『後ろから放つ安定感』や『どんな試合も無失点で終わらせること』。『試合中の存在感』は必至。それらが無いと、世界を代表することはできないとW杯を見て感じていたところです」

奇しくもそれらを存分に発揮することになったのが千葉の選手として迎えた今春のレイソルとの2試合だった。「確かにそうかも」と笑った若原はユニークな表現であの2試合を回想した。

「…なんと言うか、今年の日立台の『ちばぎん』とフクアリでの『百年構想リーグ』でのプレーに関しては自分でも分からないくらいでした(笑)。自分の状態も良くて、1つ1つのプレーに集中できていたのもあるんですが、『相手』がみんな上手かったので、試合を通して隙を見せずに戦えたつもりではありますし、リズム良く戦うことができたし、自分の中では『防ぐべきシーンを防ぐことができた試合』になりました…あのレイソルとの試合はすごく楽しかったんですよ。だから、『あのレイソルのクオリティを毎日の練習の中で体感できるんやったら…』という感触や気持ちがレイソルへの加入を決めた理由だと言えますし、『毎試合、その日その日のベストを!』とプレーしてきたので、オファーを聞いた時は迷いながらもうれしかったですね」

まさに「昨日の敵は…」なんとやらではあるが、加入後すぐにスタートした北海道・網走キャンプの中でレイソルのクオリティをどのように感じたのかについてやGKグループの中で受けた衝撃はあったのかなどはいつか語られることだろう。最後に若原は「レイソルの若原」としての最新の目標をこう話してくれた。

「柏レイソルはチームとして『タイトル獲得』を意識しているクラブ。自分が持っている力がこのチームが目指す『タイトル』への力となるのならと強く思っています。まだ、レイソルサポーターのみなさんにとっては『若原?あいつ、誰や?』って感じかもですけど(笑)、すぐにしっかり認識してもらえるように、プレーで見せていきたいです」

彼がどこの誰であろうと、どこから来ようと、柏レイソルが「国内外4つのタイトルを狙うために必要な選手」だと選んだことに変わりはない。レイソルは若原の力を求め、若原は自らの新たな力のためにレイソルを選んだ。ただそれだけのこと。

新たにレイソルのユニフォームを纏った新加入6選手の中で、ひときわカラーリングも発色も豊かになった新GKユニフォームが放っていた煌めきも手伝ってか、若原の姿は大きく見えた。

この記事を書いたライター

今月のプレゼント