「ゴール」に嫌われている?いや…そんなことより、私達は「ゴオル」を待っている
「うおぉぉぉーっ!」
FC今治を迎えての天皇杯3回戦。
絶え間無くあらゆる角度から吹き付ける小雨の中で、健気に濡れたボールを包み、磨いていたボールボーイの少年が言葉にならない感情を爆発させていた。
選手がボールを待つピッチへと何度かボールを供給する、あるいはボールを回収するという仕事に夢中のボールボーイ曰く、「サッカーをやっている。いつもポジションは…うーん、『右』?」、「今日のボールボーイはみんなチームの友達」、「試合の後に温泉に行く」ー。
そして、「今日は絶対にマオ選手がゴールを決めるよ!」とのことだった。そこから数分後、彼の「予言」は見事に的中することになる。
小学生にも「マオ」呼びさている独特な知名度に少し驚きながら試合を見守っていると、38分に細谷真大が先制ゴール。ドリブルをする細谷へアプローチした選手が数秒後にはなぜか弾き飛ばされているという細谷らしいゴールとその事実にまつわる現象を目撃してしまったボールボーイは絶叫していた。その興奮ぶりはゴール直後に交わしたハイタッチに籠った体温や握力が証明していた。きっと、この夜、温泉の脱衣所で細谷の身振りを真似していたことだろう。

ボールボーイにとってはスペシャルゴールだったが、細谷にとっては長らく待った今季初ゴール。おまけにセレブレーションは控えめだった。その理由を彼はこう話した。
「今治戦のゴールは純粋にうれしかったですけど、自分にとっては当たり前のことというか、『当たり前のゴール』でした。どっちかというと、1点目のゴールは『自分の形』かなと思います。常にあの形は出したいし、決めないといけない。次はJ1の試合で」
どんな「ゴール」は常に尊いものだ。待望の「今季初ゴール」とはいえど、J1リーグでのランキングに細谷の名前は無い。ついでに言ってしまえば、スタメン出場の選手たちのグラフィックの中にも細谷の写真は無いことが多い。ウォームアップだけでスタジアムを後にする細谷はあまり見たく無い。細谷の中に焦りが無いのもすごいが、彼の中の火が消えてしまったわけでも無い。ただ、あのスタジアムが揺れるような、「マオゴオル」にはあり付けていないのは事実だ。
細谷は現状をどう思い、何をしている?
「自分は試合の試合の最初から、スタメンから出たい気持ちに変わりは無いですし、途中から出てくる選手では無いと自分でも思っているし、試合に出た時には色々と試しながらプレーをしているつもりではあります。やっぱり、試合に出ることも、自分を試すことも続けないといけない。ボールを収める『ポストプレー』もチームから求められているプレーの1つでもある。自分に別の得意な形があるにしても、今は『こういう使い方もできるんだ』と思われるようにやっていくしかない」

唯一無二のドリブルで相手を弾き飛ばす細谷も勇ましいが、韓国の屈強なDFを背負い、片腕でコントロールして、馬場晴也の攻め上がりを促すアシストも見られたし、駆け抜ける細谷へ向けた足の速いクロスを放つ仲間たちの気持ちだって感じている。
「馬場とはああいう判断のところがイメージが合ってきた気がしています。あの試合では馬場が自分が出せるすごく良いタイミングで入って来てくれていて、結構相性が良いのかなって感じていますし、もっと、積極的に出していくべきコンビネーションなのかもしれないですし、周りの気持ちは自分も感じいてる。ただ、自分が途中から試合に入ることによって、前半の戦い方とはまた変わってしまうので、どうしても、縦に速くなってしまうので、試合展開が『行ったり来たり』になることが多いところは考えなくてはいけない。『チームに求められていること』や『自分らしさ』という面のプレーの使い分けというのは難しいですけどものにしたい。もっと考えながらやらなくてはいけないなと思います」
8月下旬にはパリ五輪を共に戦った藤尾翔太が電撃加入。藤尾のポジションは細谷と同じFWだ。垣田裕暉と瀬川祐輔との出場機会争いにまた強烈な個性が加わった。「藤尾の加入の可能性を初めて聞いた時から監督やチームからの『自分への気持ち』は感じている」と言っていたから、どっちかというと「うれしい」という歓迎スタンス。同じチームになったからには「共にピッチで」という思いはあるというが、FWのポジションの椅子は「1個」か、良くて「1個半」。
「やりたいですね、自分たちの希望はそうなんですけどね。年代別日本代表でも自分たちはコンビで楽しくやっていましたし、FW同士の自分たちにしか分からない感覚だったり、考えもあるよなと思ったりはしますけど、自分たちのシステム的に…たぶん、それは無いとは思います(笑)」

状況をこじ開けるのはまさに自分次第。現在の状態は見るからに良好。細谷が言うように色々なアプローチを試みる姿も見たし、跳ねるよう駆ける姿も戻ってきた。カテゴリーは違えど、DFを弾き飛ばすアタックも飛び出した。だから、8月のある時には真顔でこう言い放った。
「ゴールに嫌われている?いや…もうすぐ入りますね、『無双』状態」
この9月の終わりには同期の盟友に起きたアクシデントがあった。広島から届いた「試合開始早々に熊坂光希がピッチに座り込んだ」というニュースは細谷を刺激していた。かつてはバリバリの世代別代表選手だった細谷と度重なるケガに苦しみ、出場機会すら無かった熊坂という間柄だったが、時を経た今では共にレイソルを代表する「顔役」の選手。認め合う2人は揃って日の丸を背負ったことだってある。
「まず、一番悔しい思いをしているのは光希本人。今回も一緒に行きたかった気持ちは強い。自分もこれからまた、『あのチーム』に戻れるようなパフォーマンスや結果を残していきたいと思っているし、もう一度、光希と一緒に『あのチーム』に選ばれて戦いたいとも思っている」
元々、スロースターター型なのは知っている。だとしたらそろそろ良い頃だ。最後はいつもゴールネットを揺らしていることも知っている。こちらや誰かが躍起になって焚き付けたとて、良い意味で頑として動かない。細谷がちょっとでも「違う」と感じたら、それは違うのだ。
だけど、言わせてくれ。ここはやらねばならない。

「そうですね。10月は試合が続いていくし、ACLEを含めた連戦になっていくので、自分にもまたチャンスが来るように日々準備をしている。今月はホームでの試合も多くなるので、自分がチームを勝たせるようなゴールを決めたいなと思います」
ただの「ゴール」では無く、「ゴオル」を期待される選手は大変だ。だから、意気込みなんてシンプルで良い。元々、サービストークなんてしないんだ。そこに関してはあのボールボーイくんの方が達者かもしれない。
でも、細谷にしかできないことがある。私達はそれを知っている。

細谷よ、そろそろ唯一無二の「ゴオル」でスタジアムを揺らしてくれ。ちょうど、昨年の今頃、私達と三協フロンテア柏スタジアムを揺らしてくれたように。
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