ピッチに刻み付けた膝の跡ー山内日向汰

 8月のJ1リーグ開幕戦。取材エリアに現れた山内日向汰は「ふーっ」と息を強く吐き出してから、少し幸せそうに。

 「…疲れた。きつかった(笑)」

 試合終了と同時にしばしの間、仰向けに。それもそのはず。この日の山内はフル出場。あのダイナミックな仕掛けや全力でのプレッシングを繰り返してチームに貢献。12キロを走り切ったのだから。

 その日も充実感こそありながらも、浮かれた様子や喜びは「そこそこ」といった様子だった。こちらの力不足かもしれないが、元々口数が多い方では無い。その分、聞き逃せないタイプでもあるが、何よりプレーが雄弁だ。

「今日はチームとしてやりたいことを…60パーセントくらいは表現できた試合になったと思います。『複数得点』を取ることはできてはいましたけど、『3点目を奪うこと』、『相手をゼロに抑えて勝つ』というところが今の課題になると思います。同サイドの遠藤渓太くんはクオリティの高い選手ですから、自分がやることや自分たち同サイドで共有していることを試合の中でしっかりと出しながら、渓太くんが自分に合わせてくれていたと思う。これからもっと良い関係性を築くことができると思っています」

 現在も左サイドで繰り返される遠藤渓太との「活かし・活かされ」のクレバーな関係はこのあたりからスタート。

 また、「どんなシーズンを過ごすつもりか」を問えば、答えは至ってシンプルなものだった。

「そうですね…『シーズンを通じ、自分のプレーを確立して、柏レイソルのタイトル獲得に貢献する』ー。それが今年の自分の目標です」

 基本的にピッチ上で放つ山内の「キャラクター」や「違い」に変更は無い、「ライン間」を見つけた瞬間、真横に仕掛け、自分が納得する瞬間が訪れるまで繰り返すカットインのドリブルはもうすっかりチームのディテールとなっているし、「あのドリブル、実は自分たち中盤からすると、すごく助かるんです。ラインも上げられるし、スペースを作ってくれる」という中川敦瑛、「横へ何度かスライドしながらシュートへ持ち込む形は日向汰が上手い。自分も参考にしている」という瀬川祐輔という声も出てきている。

 確かに、山内のカットインを見るたびに「ゴール前での縦パスの選択とカットインの選択。プレー成功の確率って、実は『どっこいどっこい』じゃないか」と感じている。

 ただ、見るからに質は向上しているし、集中をしているし、チームメイトとのコミュケーションの距離感からも「チームの中に入った」感じは見て取れる。山内はある時、山内は大谷秀和コーチや染谷悠太コーチの名を挙げながら、こう話した。

「チームメイトやコーチからの話や助言を聞きながら、『どうやったら』というところであるとか、『どこを見たら』、『どう意識をしたら』というところを明確にすることができている。そこが整理できつつあるのだと感じています」

 また、ある時には改めてこう話し、自分が置かれた状況まで口にしていた。

「毎試合チームからフィードバックしてもらっていますし、そこから色んなものを取り入れて、今に繋がってきている。今思えば、自分はそんなに考えてサッカーをしてきていなかった。自分の中ではしてきていたつもりだったけど、そこがより『感覚的な部分から具体的に形式的に』じゃないですけど、考え方を移行できている。今は自分にとって『重要な時期』なんだと思います」

 その後、雨の町田戦ではドリブルで突っ掛けるよりも、中盤からボールを引き出す働きでチームに貢献。これまでのイメージよりも「中盤へ落ちる」山内という新しい一面を見せるなど具体的化は進んでいる。

 山内がプレーする「シャドー」はチームの結果にかなり直結するポジションであり、ある意味で、その試合においてのチーム「表情」のようなものを担うポジション。故に「俊英」や「芸達者」、「有段者」たちが居並ぶ激戦区のポジションでもある。

「だから、日々のトレーニングから自分が持つ『違い』を証明していかなくてはいけませんし、『自分がピッチ上で何を証明できるのか』を考えてながらのプレーを続けていきたいです」

 その1つの証明となるのはこのところ繰り返している「ゴール」となるのかもしれない。しかも、「重要な試合で」という注釈付きのものである。

 神戸戦での妙技も記憶に新しいが、鹿島戦での輝きは特に美しかった。山内は「シャドー」でスタメン出場。「必ず勝つ」という意志を示す、チームの表情となった。

「1点目はうまくポケットを取れて、そこから落ち着いてワンテンポずらしてゴールを決められた。2点目に関してはうまく前線の守備対応で中を切りながらプレスをかけられて、そこからうまくコントロールして打つことができました」

 この2ゴールの中にある素晴らしさは、山内がビッグマッチ仕様のプレーをしたわけでも特別なマジックを見せたわけでも無く、「カットインからの景色を良くするための「ワンテンポ」からのシュート」と「相手の拙いビルドアップに絡み付き、マイボールにして走り出し、ニクいテクニックを見せてからシュート」。ドレスコードは「レイソルイエロー」、普段着の山内がずっと見せてきたプレーの結晶であること。

 ドスン!バタン!となってしまう様子が愛らしかった歓喜の「ニースライド」も、この日は2回とも成功させた。まるでタイトル獲得へ向けて勇ましい航海に出るかの如くピッチを滑って行った。まさに「今の山内日向汰そのもの」が詰まった完璧な仕事だった。

「自分がシュートにいく場面というのは確実に増えてきているし、その塩梅や調節というのを実験しているところでもある。今日もまだ何回かボールを失う場面があったので、そこは課題も出つつ、良い部分も出つつとという感じでした」

 なんとなく、「試合後のロッカールームではどうでしたか?」と聞かせてもらった。これは聞き逃すわけにはいかない。山内は柔らかく微笑みながらうなずいた。その口数はカコイチで少なかった。

「…ほめてもらいました(笑)」

 ヒーローのコメントとして秀逸だった。

 J1リーグでは現在「3」ー。ACLEでは「1」ー。これは山内のゴール数なのだが、無視できないエピソードがある。

 それは山内と細谷真大の間で交わされたゴールにまつわる「誓い」のようなもの。

「お互いにゴールが無い状況だった時期が長くて、マオと『どっちが早くゴールを決めるのか』を競い出したら、自分が決めちゃったんです。そうしたら、なんとなく『…そこはシーズンが終わった時のゴールだろっ!』ってルールに変わっていました」

 この争いの注目点は「いや、今の山内日向汰なら、『良い線』いくかもしれないな」って思わせる説得力があるところ。次はどんな山内を見せてくれるのだろうか?…3mくらいのニースライドから力強く立ち上がり、私たちを煽る姿なんて、次は細谷が山内の傍らで我が事のようにゴールを喜ぶシーンなんていいね。

この記事を書いたライター

今月のプレゼント