私たちはまだ彼をよく知らないー長南開史

柏レイソルトップチーム所属の17歳・長南開史が世界へのチケットを懸けて、5月5日からサウジアラビアで開催される「AFC U-17 Asian Cup Saudi Arabia 2026」へ出場する。


練習場の片隅で佇んでいた長南は「今日はじっくりと『上げる』みたいです」と言ってから練習試合をするメンバーたちから離れ、約1時間のフィジカルトレーニングで汗を流した。「上げる」とはコンディション面のこと。そのメニューも実戦的な所作を取り入れた最終確認的なものだった。見るからに右ウイングバック(WB)を想定した仕上げ方だった。それは今春の負傷からの日々が終わろうとしている合図でもあった。


時に大きな悲鳴を上げ、肩で息をしながらピッチに突っ伏すほど、体を追い込んでいたフィジカルトレーニングを終えた長南は大会向けての気持ちをこう話してくれた。

「チームのみんなが『この大会に優勝するんだ』という明確な目標を持って、ここへ集まっています。『日本代表』という名が付いている以上は、アジアの大会で負けるわけにはいかない。メンバーも質の高いメンバーが揃っていますから、自分たちは優勝しなければいけません」

柏レイソルUー18での勇姿を見た限り、『攻撃に秀でた選手』であることはまず間違いない。高円宮杯プレミアリーグのデビューからやけに冷静な選手だった記憶もあるが、類い稀な「鉄人」で、数多のパスを繋ぐことや縦パスに優れたタイプの選手でも、向かって来る相手を弾き飛ばしてからゴールを奪い、両耳に手をやる選手というわけでも、「自分が参考とするモデルはここには無い」と言い放ってドイツへ旅立つ選手でもない。


知る限り、『中盤や両サイドでプレーができる』という点は長南の優れた能力。だが、不定期ながら長南のプレーに目をやると、毎回違った印象を残してくれること、凛々しくなったツラ構えやメキメキと分厚くなっていく全身を含めて、これまで見てきたものを持って「長南開史」という選手のキャラクターを決めつけるのは少々野暮な気がしている。その意味で私たちはまだ彼をよく知らない。だから、長南に自身のプレゼンテーションをお願いするとすれば、果たしてどのような内容になるのかと聞いてみた。

「今年はレイソルのトップチームの中で練習をしていますが、自分自身としてはやれている自信があります。だから、『気持ち』ですかね、モチベーションを落とさずに取り組んでいきたいですし、トップチームで自分が向き合っているプレー強度をこの大会に持ち込むことができたらと思っています。このチームでのポジションはおそらく右WBになるはずです。自分の特長としてあるのは、『推進力』と『ドリブルで状況を打開できること』ですかね。そこを見ていただけたら」

\この日のトレーニング時に聞こえてきた最高速度の数値もなかなかのものだったが、プレゼンテーション能力も非凡だったとは…。


加えて、長南には2024年から積み重ねてきた年代別日本代表での経験がある。東アジアのサッカー選手である以上は避けられない「中東開催」の予選大会。「もう結構行っていますね」というからにはあの地がどのような舞台なのか教えてもらうことにした。

「自分は4回目の国際大会出場になりますから、しっかりとしなくてはという気持ち。特に中東の大会では自分たちの『メンタル』が試されることになります。『レフェリーの笛』ですよね、ファールの基準も自分たちがプレーしているリーグとは違うことも多い。自分たちはプレー面では問題はないと思います。だからこそ、『いつも通りにサッカーを』というメンタルが大事だと思うし、強く意識をすることが必要になります…『余計なこと』はすべきではない。VARも入ってきますからね」

「余計なこと」ー。

まず、私はこの件を突っ込んでいない。そこをはっきりとさせた上で、長南が自ら切り出したことをまずここに残しておこう。

それは2025年のUー17W杯のワンシーン。グループリーグ最終節での「余計なこと」。サイドラインで相手選手と激しくもつれ合った際の対応が未熟だった。

結果はいわゆる「1発レッド」…上げた足の向きを含む印象は確かに悪かった。そのチームは2連勝で準々決勝まで進出。しかし、長南はちょっとだけ片隅で独特の居心地を味わっていたという。

「あの失敗、あの『いっときの感情』からの判断で自分の時間や自分の経験は止まってしまいました。あのチームはあれからも勝ちはしましたが、自分はそれを見ることしかできずに、『自分がいたら…』と思う瞬間を何回も味わいました。あのような瞬間にカッとしないことを含めて、自分の中にある課題はメンタル面になります。この大会を通じて人間的にも成長をしていきたいです」

「彼の側」に立てば、大会中にメキシコ代表と築いていった素敵な関係と共に「1試合の尊さ」を持ち帰った大会になったわけだが、たくましくトーナメントを駆け上がっていったチームにとっては「短期決戦での戦力ダウンを招いたこと」に変わりはなかった。

とはいえ、そんな苦く辛い経験に対する「復讐」ならぬ、「復習」を披露する機会が訪れる選手はそうはいない。貴重な経験となることを願うし、今回の国際大会の歩みは前回までとは少し異なる意味合いもある。

「今の自分にとって、このような公式戦で、しかも国際試合というレベルで実戦の数を積めることはすごく貴重なことですから、大切な機会でもありますし、リカルドがフルマッチを見てくれる時間があるのかは分かりませんけど、せめてハイライトを見てくれた時に、そのハイライトの中で自分がゴールをしていたり、アシストをしていることが理想としてあります。まずはチームの勝利が大事ですけど、そうやってアピールをしていくことも頭にはあります。だから、『結果』は重要視していきたいです。トップにいさせてもらっている以上、試合に絡んでいきたいですから。同じ右のポジションには久保藤次郎くんやヤマノウチ(山之内佑成)、トモくん(大久保智明)という先輩たちもいますけど、どんな形でも自分は試合に絡みたい」

リカルド・ロドリゲス監督は日頃から柏レイソルアカデミーを含む育成組織について、「クラブにとって『もっとも重要な存在』に変わりはない。情報には常にアクセスしているが、足を運べずに申し訳ないと思っている。現在もトップチーム所属のカイジをはじめ、多くの選手たちが行き来する形で練習機会を共有していますし、楽しみな部分でもある。なぜなら、『クラブにとって最も重要な存在の1つ』だからなんだ」と話すほどだ、長南にはその緊張感も楽しんでもらいたいし、ここからは私の予感だが、あの人が長南の試合をチェックしないはずはない。


また、それなりの年月を柏レイソルに注いできた人間からすれば、それなりの「既視感」もなくはない。時代や年代は違えど、かつては中村航輔(C大阪)や中谷進之介(G大阪)、中山雄太(町田)といった若者たちが、日本代表の名の付くチームから帰り、大陸から持ち帰った経験を糧に驚異的な成長曲線を記録していったことを目撃してきたつもりだ。長南がいるロッカールームには細谷真大という素晴らしいサンプルもあるほどだ。「結果が全て」のこの世界、年齢はそれほど障害にはならない場合もある。

頼もしかったのは長南自身がその緊張感を最も理解していたこと。

「どの試合も簡単とはいかないですが、今大会はグループリーグ2試合目の中国代表戦が1つの山場になるはずです。今回の中国は評判が良いので難しい戦いになると思っています。もしかしたら、自分に向けられる視線も『この年代の選手』というより、『柏レイソルトップチーム所属・長南開史』というものになるかもしれません。そうだとしたら、その視線を上回るプレーや振る舞いで大会を終えたいです。きっと、今回も『あの瞬間』と似た瞬間もあるかもしれないですけど、前とは違う成長した姿を見せたいですし、『2ゴール・2アシスト』が現実的な目標としてあります。良い結果を日本へ届けられるようにがんばります」

柏レイソルの末っ子はそんな覚悟を胸に、この年代の中心選手としてサウジアラビアへ臨む。かつて、埼玉県浦和市の柳崎SCジュニアからレイソルアカデミーを越境受験して加入を決めた際には柳崎SCのたくさんの後輩たちが長南を慕って、立て続けにレイソルアカデミーの門を叩くほど、「その界隈ではそれなりのヒーロー」でもある。


そう、その「ヒーロー」とやらは、少しミスをして、次回の出現まで私たちを焦らすもの。あの時上げてしまった足は、チームを高みに連れて行くために磨きをかけてきた。長南開史という選手を知るには、実に「いい頃」かもしれない。

大会は2026年5月5日に開幕する。日本代表はグループBに所属。初戦はカタール代表と対戦する。

この記事を書いたライター

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