『朝鮮漂流』 町田 康著 新潮社

ふれあい毎日 良書吉日

異文化と取っ組み合ってサバイバル

江戸で町人文化が花開いていた今から200年余り前、実際にあった話です。物語は九州の更に南に浮かぶ沖永良部島から始まります。

ある年の6月14日、薩摩藩が治めていたその島から一艘の船が母国薩摩の港を目指して出航しました。島での任期を終えて帰国する3人の薩摩藩士を含む25人の乗組員と島の特産品を満載した船でした。

予定では何日もかからず帰港できるはずでしたが、早い台風にでも遭ったのでしょうか、船出早々に大嵐に見舞われてしまいます。荒れ狂う風雨に帆柱は折れ、櫂は壊れ、浸水する海水を汲みだしながら、行方も分からぬままに船は何日も漂流しました。

7月3日、見知らぬ土地、朝鮮国に漂着しました。物語は、ここまで大嵐に立ち向かう乗組員たちの悲惨な奮闘ぶりが描かれていますが、本題はここからです。

3人の藩士は、救助と帰国への支援を求めて、朝鮮国の役人と交渉を始めます。言葉は通じませんが、幸い日本も朝鮮も中国文明の影響を受けた国なので、漢字が分かりました。交渉はすべて漢文による筆談。延々と続くまどろっこしいやり取りに、苛立ち苦労する日々が続きます。

お互い、藩と国を背負っての交渉ですから、譲れない事情のぶつかり合いの連続でしたが、いつしか通じ合う気持ちが生まれ、時に酒を酌みかわし、漢詩を交換し、互いの心を寄り添わせるようになりました。無事帰国はかなったのでしょうか。

生まれ育った国も文化も考え方もまったく違う者同士が、互いを理解し認め合うのは難しい。おかしな思い違いばかり。我慢と相手への敬意だけがその壁を突き崩してくれます。現代にも通じる物語と言えるでしょう。

■風来坊
■ウオーキング、ハイキングとラグビー観戦が趣味の呑み助。近年始めたサックスに、ただ今苦戦中。

この記事を書いたライター

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