風来坊の読書案内いのちの糧 良書吉日⑬大義に生きた前田家三代の物語『銀嶺のかなた(一)(二)(三)』安部龍太郎 文芸春秋
加賀藩前田家三代(利家、利長、利常)の歩みは、戦国時代という動乱の世が、徳川幕藩体制に収まっていく様子を俯瞰して見せる。利家、利長、利常それぞれの苛烈な闘いと緊張の日々は、家の誇りと領土領民を守り抜かんとする前田家の綱渡りのような姿を描く。

余命僅かを悟った利家が、豊臣への最後の奉公として家康の誅殺(ちゅうさつ)を謀る。再び戦乱の世を招き領民を苦しめるとして、利長がそれを押し止める。利長は家康が豊臣政権から天下を引き継ごうとしていることを早くから見抜いていて、「欣求浄土(ごんぐじょうど」」を目指すという家康の志に、密かな共感を覚えていた。だが利長が止めた利家の謀(はかりごと)が漏れて、幕府(二代将軍秀忠)に前田家征伐の絶好の理由を与え、利長は苦境に陥る。
一戦をも覚悟した前田家最大の危機は謀の一端を担わされて身を隠していた利長の弟利政を連れて、自ら江戸に人質として出向いた母マツらの助力により、乗り越える。
大阪冬の陣、夏の陣を経て天下を握った徳川三代(家康、秀忠、家光)は、徳川幕府の絶対的な地位、権威を築くために、裏に表に、様々な手を使って豊臣恩顧の大名を服従させようとする。中でも百万石の禄高を治める最大の大名、前田家初代利家は豊臣政権で家康と肩を並べた家柄だ。
前田家を守る闘いと、徳川幕府の絶対的な地位を築こうとする闘いがぶつかり合う。ついに、徳川家光が加賀藩の次代藩主を光高に名指しする。将軍といえども藩主を決める権限は無い。利常の次の藩主となる光高を幕府の役に取り込んで、前田家支配の実現を図ろうとする家光の申し出を利常は断る。その決断が、激怒した家光による光高毒殺という悲劇を生み、利常の心を砕き苦しめる。利常の、前田家三代の、最後の闘いが始まる。
表向きは平伏しながらも、心は日本一の外様大名として幕府から距離を置いて進もうと決意した利長、利常の闘う姿が、ドラマチックに描かれる。
■風来坊
ウオーキング、ハイキングとラグビー観戦が趣味の呑み助。最近始めたサックスに、ただ今苦戦中。
◆『良書吉日』は前号までの執筆者「吉法師さん」から、「風来坊さん」にバトンが渡りました。引き続きご愛読を!(編集長 谷野芳子)
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